秋霖止まず 第四十九話
「悪い話ですか?」
「いや、そうではない。逆だ。皇帝と言うわりに民主的な思考があるとな。あなたの父上はブルンベイクでは確かに名士ではあったが、立派な働きをしていたにもかかわらず爵位は与えられていない。勇者とか言う時代遅れのそれがあるが、それは商会が管理の簡略化のために勝手に付けただけのものであり、爵位でも称号でも無い。言うなれば優秀な下請けの見分け方の一つにすぎない。
連盟政府は上級貴族による支配的な社会であり、単に君主がいないだけでその実、専制政治と大差ない。基本的に政治を行う上級貴族は、支配をより簡単にする為に下級貴族以下には衆愚的な教育を施すのだ。エルフを魔王だという、今でこそ見え透いたプロパガンダが通用していたのは、そのおかげなのだ。その中で民衆による政治を行うという思想が育まれようか。その意外性がかなり評価されている」
「意外でも何でもないと思いますね。私の生まれ育ったブルンベイクはかつてイングマール領の小さな村でした。ですが、カルルさん、閣下に特に気に入られていました。言い方は悪いですが、要するに領主に贔屓目に見られていたのです。
父は、それだけではないのですが、色々あって連盟政府の中央とはあまり良好では無かったので、商会や采領弁務官の下部組織など爵位を与える組織の内部で、与えようという話は起きなかったそうです。傭兵くずれのパン屋ぐらいにしか思われていないとも笑いながら言っていましたし。
閣下は自らの領地であるイングマールで衆愚政治を行わなかったのです。その中でブルンベイクは特に独立した自治を許されていました。だから今の北公があると言うわけです」
「なるほど。それでブルンベイクはカルル閣下を存在を消してしまうほど完璧に匿える強固な信頼を築いていたのか。やがて民主的な思考からは逸脱する危うさを抱えた平等主義の国が、奇しくも皇帝に民主的な国家を教えたというのか。皮肉だな」
ルカス大統領は鼻で笑った。
「さて、話が逸れた。皇帝の語る民主主義というギャップがインパクトを与えたのかもしれないが、とにかく君への民議会の評価は非常に高い。この間の会議であなたを糾弾しようとしたディヤーベオ議員は、今後君に下される法的な処分の軽減すら求めているほどだ。民議会は各地の代表者だ。君の支持が多数派が占めると、市民への影響は少なからずある」




