秋霖止まず 第四十七話
私は後付けとはいえマルタンを亡命政府の顔をして実効支配した者たちの頂点に立った者であり、この件について何かを言う権利は有していない。さらに、先ほど余計なことは言うなと釘を刺されたが、言わずにはいられないのだ。マルタン事変の最中、この二人を混乱の中であっても抑え込んでおくべきだったのは、私のなすべきことの一つでもあったはずだ。
おめおめと逃げ果せることを許し、こうして自らの知名度の低さを利用して表舞台に立つ機会を与えてしまったことを、今度こそ見逃してはいけない様な気がするのだ。
「この件、候補二人が元顧問団であると糾弾する議題の民議会への提議は控えた方が良いのではないでしょうか?」
また止められるかと思ったが、ルカス大統領は意外にも「何故かね?」と発言を許してくれた。
「大統領閣下は先の談合事件について、コマースギルド代表のミラモンテス氏と亡くなられた市長を現状維持を推し進めるために処分を先送りにして、一時的に不問に処しましたね。そこに突然の市長死亡により市長選挙が行われることになり、その腹心である副市長が立候補した。つまり、大統領は副市長への支持を表明しなくとも、副市長を支持するのは明白です。そこへ来てこの議題を議会に提出するのは、他候補へのマイナスイメージを植え付けようという、あまりにも戦略的すぎだと議員には受け取られます。マルタン自治への大統領権限の部分的拡大が決定していると言われていても、こればかりは地方自治への過剰な干渉であると判断されると思います」
「ではどうするべきだ。この元顧問団が当選するかもしれない可能性を、手をこまねいて見ているのかね?」
「誰が当選しても良い状況を作り出せば良いのです」
ルカス大統領は首を動かし、話せと促してきた。
「ギヴァルシュ政治顧問は連盟政府の役人の下働き、ルクヴルール軍事顧問は世襲で立場についた軍人でした。しかし、二人とも三流であり、連盟政府にいたときの基本的な業務は判子押しと雑用だけでした。それ故に権力には飢えています。
まだマルタン自治における大統領権限部分的拡大というだけで、具体的な内容は決まっていないでしょう。
それを理由に再編検討という体で、一度マルタンの全権を中央に集約しましょう。市政とは別であるマルタンにおける中央権力の優位を推し進め、軍備や輸送に関しては完全に掌握してしまえば良いのです。
その後、大統領の権限でマルタン市長には、中央にとって必要な権限以外のそれなりの権限を与えればいいのです。
もし仮に二人のどちらかが当選しても、間違いなく権力に飛びつきます。それを与えたユニオンに靡くでしょう。仮に当選したのが現副市長であっても、権限が増えるだけで現状は変わらないですね」




