秋霖止まず 第四十六話
やはり生き延びていた。ああいうの手合いはしぶといのだ!
一度は寝食を共にしたと言っても過言では無いヤツらに、驚きや怒りの前に妙な懐かしさを覚えてすらしまった。
生きていたのは良しとしよう。だが、何故こういう場面になって再び憎たらしく再登場してくるのだろうか。権力志向など捨て去り、ユニオンの田舎で農家でもして慎ましやかだが精神的に豊かな暮らして、子孫に囲まれて穏やかに生涯を終えてくれればいいものを。
写真から視線を上げるとルカス大統領が険しい顔で睨みつけていた。
「陛下はその二人に見覚えがあるな?」
「ええ。しかし、よくもまあ、こうも恥知らずにまた表舞台に顔を出せたものですね」
呆れかえりつつも、その生命力というのか、力への意志というのかには感心してしまいそうだ。写真をテーブルの上に並べるように置いた。
「その厚顔無恥さは政治家にはぴったりだな」
支持率の方の書類も渡されて軽く目を通した。
現職副市長が三十五パーセント、ギヌメール候補であるギヴァルシュ氏は二十六パーセント、ルジャンドル候補であるルクヴルール氏二十三パーセントとなっている。
現職副市長の支持率があまり振るわないのは、殺害された前市長の談合事件がまだ足を引っ張っているのだろう。
しかし、それよりも注目すべきは元顧問団の二人の支持率だ。現職副市長の支持層の一部が談合事件を機にある程度他候補へ流れるのは理解出来るが、それでも高い値を占めているのだ。
この二人などポッと出の泡沫候補に過ぎず、マニフェストも魅力的な釣り餌なだけで実行力はなく支持率も高が知れていると思っていたが、かなりの支持を受けている。
「彼らの素性を知っている者はたくさんいるはずです。それなのに、なぜ事前の調査であそこまで支持を得られたのでしょうか。不思議で仕方が無いです」
「彼らを顧問団として認識しているのはかつての一部の部下とあなたぐらいな者だ。知っているとは思うが、組織としての顔は皇帝であるあなたであり、あなたの顔は広く知られている。しかし、かなりトップダウンの組織だったために顧問団がいるとは知っていても、下の者は指示以外を知る機会はなく、顔すら知らない程度なのだ。マイナス要素の一つたり得るそれの影響は全くないと思った方が良い」
「どうやら市長再選挙は、民主政治の象徴でありながらただの茶番劇だったというワケには行かなくなったようですね。この選挙の結果が国防に影響を与えるのではないでしょうか?」
「陛下、あなたがそれを言うと不穏に聞こえるな。まるで悪役のそれだ」
「何を今さら仰るのですか。私はユニオンの土地を蹂躙した悪の皇帝ですからね」
「冗談はさておき、どう対応を取るべきか」
ルカス大統領は腕を組んで考え込んでしまった。




