秋霖止まず 第四十二話
会議室全体をゆっくりと見回し、議員一人一人の目を見た後、
「大統領、議員の皆さん、彼を糾弾して追い出してしまうことだけはお絶対にやめください。策を練り、日の当たらないところで動き回り、私が知らぬうちに陥れてしまおうとせず、このような議会の場ではっきりと迫ってきたのは、ユニオンが限りなく影の少ない民主的な国家であるが故なのです。
民主的な国家であり自由な言論が約束されているからこそ、彼はここにいるのですから」
と訴えた。
議員たちは静まりかえった。
私に責任を押しつけようとした議員は縮こまり、ばつが悪そうな顔をしている。どうやら、嵐を一時的に収めることが出来たようだ。
そこへ大統領が二回ほど手を叩いて衆目を集めた。
「おい、議員ども、皇帝陛下になだめられてどうする。民主制を真っ向否定する専制政治やマキャベリズムの権化たる皇帝陛下の方がよほど民主国家を理解しているではないか。情けないぞ。ディヤーベオ議員、お前、感謝するんだな。処分は後で通知する。安心しろ。追い出しはしない」
その議員への処分は、マルタン関連の会議への出席を三回停止するだけにとどめられた。
その日の会議はそれ以降淡々と話し合われた。しかし、余裕を持って話し合うという以前のようなものではなかった。
亡命政府の件が終わりを迎え、後は司法的なものだけであるとユニオン国内が落ち着きを取り戻そうとしていたが、再び大統領も民議会もぴりついた雰囲気になってしまった。
どこか危うく浮き足立ち、落ち着きの無い議論が日々進められていく裏でユニオンの警察組織は捜査を着実に進めていき、やはり狙撃であることは間違いないと結論づけられた。例のスヴェンニーのスナイパー、ポルッカさんが疑われたが、本人は「どこぞの下手くそと同じにするな。殺しが目的なら、私なら一撃で眉間に当てる。負傷が目的なら一撃で尻を狙う」と取り調べの最中に暴言を吐いて勾留を一日ほど延長されていた。確かに雨中であったとは言え二発も撃つなど狙いが悪すぎだであり、仮にそれが痛めつけるためなら耳朶など撃たないだろうと、狙撃直後を見ていた私も思っていた。
並行されていた調査で、ポルッカさんはその日、別件でレアさんと共にラド・デル・マルには不在だったことが汽車の乗車券の領主書と駅員の目撃談によって証明された。
その後も数日、犯人は特定に至らず捕まえることはできなかった。
そして、一番混乱をもたらすことが待ち構えていたのだ。それはマルタンの次期市長についてだ。




