秋霖止まず 第四十一話
すかさず大統領が「ここは法廷ではない。座れ」と止めたが、「これは今の議論と関係があります。今私たちが議論しているのはマルタンのこれからに大きく影響を与えます。ですので、続けさせていただきます」と尋問を続けた。
しかし、すぐにディヤーベオ議員の勢いはくじかれることになる。
議員の発言に他のほとんどの議員が「具体的な捜査もせず責任所在を一人に押しつけるのは今後も後を引く。ここで陛下に責任を擦り付けるのは、かつて行われていた専制政治と変わらず連盟政府にすら劣る議論だ。無責任にもほどがある」と猛反発した。
唐突に始まった誘導尋問に痺れを切らしていた様子の大統領に至っては「ディヤーベオ、お前をクビにするか否かを、ここで話し合うとしよう。何、すぐに結論は出る。時間の無駄にはならん。勢いだけで一人に責任を押しつけようとする者を、その場の雰囲気に乗せてクビするだけだ。お前が試みたようにな。だが、ユニオンは民主的な国家だ。その精神に則り、民主的に決を採ろうではないか。民議会はそのために何十人もいるのだ。今すぐ採決を取れば時間も税金も無駄にならん。若いんなら出直してこい」とディヤーベオ議員を指さして叱責した。
会議室の雲行きが本題が話し合われる前に怪しくなってしまい、これでは冷静な話し合いが出来ない。マルタンの状況はこれではますます悪化の一途を辿ってしまう。悪影響はマルタンだけでは収まらず、ユニオン全体に波及してしまう。
両手をテーブルに打ち付けて「皆さん!」と声を上げて立ち上がった。立ち上がる際にさりげなく杖に触り、魔法で自分の周りだけの空気の振動を増幅させて声を部屋いっぱいに響かせた。
「私は市長殺害未遂事件について、私自身も被害者であり、その責任の一切を負うつもりはありません。
ですが、ディヤーベオ議員が事態を素早く収める為にそう仰ったのは、派閥が入り乱れ議論が出来る場が整っていると言う証拠たる派閥の一つである急進派ならではでもあり、全く理解し難い行動だと全否定することはできません。
私個人として、そのようなことを言われるのは非常に許せません。ですが、皇帝という立場を未だ堅持し、政治的な事後処理を含めたことを話し合うためのこういった会議に参加させてもらっている以上、何ら決定権を持たないにしても政治的な見解を持つべきだと考えているます。よって、早期の事態収拾への手段としてそのような方法が考えられてしまうのは仕方ないと思います。
今回起きた痛ましい事件、市長を狙撃で暗殺するなど、単なる狂気だけに満ちた突発的な犯行とは思えません。必ず、何かが背後にあります。それについて警察組織による捜査で現時点では分かっていないのではっきりと言うことは出来ませんが、議会の皆様も分かっているものだと存じます。
ここで内部分裂をしては狙撃者と、もしかするとその背後にいる者たちの思惑通りかもしれません」




