秋霖止まず 第三十九話
市長の手から力が抜け始めた。「そ、その行いを決して恥じるな」と言った後にも何か口を動かして意識を失った。しかし、それは礼ではなく、誰かの名前のようだった。
意識は無いが、まだ鼓動は動いている。生きているのだ。助けなければいけない。
私はこの人とは話をしなければいけないのだ。
まだ諦めまいと治癒魔法をかけ続けていた。
側で警戒していたメイドさんのキューディラが鳴った。すぐさま応答させると、「おい! アニエス陛下、無事か!?」とルカス大統領の声が聞こえた。
「市長が、市長が撃たれました! 外部からの狙撃です!」
まだ市長の止血が終わっていない。事態を察するには連絡が早過ぎる。
「何だと!? 撃たれただと!?」
ルカス大統領の声は裏返り、嘘偽りなく焦った様子を伝えてきた。
一瞬だが、何かを疑った私を恥じた。どうやら狙撃があったことが伝わって連絡をしてきた様子ではなかった。
「あなたは無事だな!? 市長はどうだ!?」
「耳と脇腹を撃たれました! かなり出血しています! 私が治癒魔法で止血しています!」
「分かった。何とかしてくれ!」と言った後にさらに信じられないことを言ったのだ。
「こっちも厄介なことが起きた。今朝乗ろうとしていた車が整備場へ運ぶ途中で爆発したのだ」
「何ですって!? 負傷者は!?」
「うちの整備士が……。いや、それは現場に任せるしかない。とにかく大至急そちらへ向かっている。これは明らかな目的を持った殺人だ! 誰も信じるな!」
返事をする前にキューディラは切れた。市長は完全に意識を失っていた。それから私は懸命に治癒魔法をかけ続けた。
連絡が切れてすぐにマフレナが大統領府にいる医務官を引き連れて戻ってきた。しかし、医務官は執務室に入ってくるや否や、私を市長から無理矢理引き剥がした。治癒魔法を唱えていたが中断させられてしまい、私とメイドさん二人は執務室から出されてしまった。それ以降立ち入り禁止になり、十分ほど後に青いシートを被せられた何かが担架に乗せられて運ばれていった。
その頃には大統領も到着しており、運び出されている様子を見ていた。「間に合わなかったか」と悔しそうになった。




