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秋霖止まず 第三十七話

市長はソファの肘掛けに頬杖を突き、指先で頬を叩きながら、渦巻く負の感情を怒り肩から立ち上らせている。


私は外部との必要以上の接触を禁じられていて、ごめんなさいと謝るわけにもいかず、とりあえず頭を小さく下げて部屋を後にすることにした。


しかし、「何か――」と市長は低い声で呼びかけてきた。


「何か私に言うことはないのかね? 帝政ルーアの皇帝陛下殿? それとも、小市民の声などに耳を傾けるつもりはないのかね?」


「申し訳ございませんが」とマフレナが一歩前に出て市長に話そうとしたが、私は右手を挙げて制止した。マフレナは言葉を止めて小さく頭を下げると後退して元の場所へと戻った。


「私は皇帝としての地位を与えられました。そこで市民の声に耳を傾けようとしました。一方で、市民の声を聞くことも大事ですが、それが如何に個人的なことか否かを見極めろとも言われました。しかし、外部との接触を許されず、それはどちらも叶いませんでした。私はあなたが申し上げたとおり、市民の声を聞きませんでした。それは私の責任であります。ですが、マルタンの件、私一人がここで謝れば、全てが許されると思いません」


突いていた肘を起こして背筋を伸ばし「あなたがこの場でまず頭を下げて、低頭平身する姿勢を市民に見せつけたらどうだ?」と腕を組むと顎を高く上げてきた。


「この、誰もいない、私とあなた、そしてメイドさん二人しかいない、この部屋でですか?」


思わず尋ね返してしまった。市長は答えない代わりに口を尖らせて顎を突き出し、頭を下げろと催促してきた。


「それはあなたの趣味でしょう。趣味で下げられる頭など、意味の無い謝罪です。空虚な謝罪をまず私がしても、マルタンであなたの土地を占拠した者たちが続けるのは同じく空虚な口先だけの謝罪でしかありません」


「生意気な女だな。下げる頭など一回も百回も同じではないか」


「いずれ意味のある謝罪の機会を与えていただきます。ここは失礼致します」


市長は私を見ている限り機嫌が悪い。私も部屋を間違えたのだ。早々に出て行くべきだ。

そのままカーテンを閉めずに部屋を後にしようとドアノブに手をかけて回した。

ドアを押そうとしたとき、マフレナがいきなり後ろから飛びついてきたのだ。そのまま頭を押さえ込むと地面に押しつけてきた。


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