秋霖止まず 第三十二話
「ミラモンテス氏はマルタン芸術広場事件の当日から一週間前後、取引をするためにストスリアに出向いていたようでマルタンには不在でした。帰りには経由地であるカルモナで一泊されたようです。宿泊先のホテルの帳簿、往路復路飛行機の搭乗券の記録、食事したレストランの会計も確認済みです。
嘘はついていないのは確かですが、エルフ憎しが先走って、聞いただけの話を自分のことのようには話しているのでしょうね。あるいは、いえ。
彼がルカス大統領と非常に親密な関係性があることも知っております。関係性と彼のこれまで実績を尊重し、氏の意見を大統領が尊重することも十分に理解しております」
「わかった! よくわかった! 記者会見を設けて、私から真実を話す! その代わりに全て公表してくれ!」
ルカス大統領は慌てるようにそう言うと「ホントに、何者なのだ……。君たちは」と顔を擦りながらため息を吐き出した。
「しかし、談合と言うことは現市長との癒着もあるのは間違いないだろう。そちらも取り締まらなければならない。どうしたものか」
「大統領はあまり現体制を変えたくないのですよね。現市長もミラモンテス氏も、利益は考えていてもマルタンを効率よく再興させようとして談合を設けたのでしょう。厳罰を甘くする代わりに大統領の現地での権限を増やしてはいかがですか? 常々仰るとおり、あそこは国境が近いのです。中央が幅を利かせる理由は国防だと言えばある程度の理解を得られるはずです。大統領の影響力が大きい方が怪しい者たちも行動しづらいでしょう。今後司法の場に出る場合はミラモンテス氏を不起訴にしてしまえば良いのではないでしょうか。コマースギルドも代表者が不在となれば、商会の手先が紛れ込む可能性もあります」
「さすが、アニエス陛下。メイドコミュニティは大統領関与の偽情報を流した者が商会の遠からずの関係者であるという情報を掴んでいます。大統領の権限で、全て談合が行われる前に戻すことをオススメ致します」
「君たちは何者なんだ……」ルカス大統領はまたしても頭を抱えた。
「だが、黙って何か手を加えて不起訴処分にしてしまえば、どこからでも私の采配があったと足が付く。いっそのこと全てを明らかにした方が問題はこれ以上炎上することはないな。公表後にミラモンテス氏、マルタン市長を不問に処し、その代わりに現地での大統領権限を一部拡大。マルタン復興事業は細分化、現在進行中のものはそのままに、まだ手が着いていない工事等は全て入札を再開することにしよう。それも、より開かれた場所で監視を付けながら公正に行おう」




