秋霖止まず 第三十話
「なんだと? どういうことだ? 私は聞いてないぞ? いい加減なことをいわんでくれ」
ルカス大統領は厄介払いをするようにそう言った。イルジナは一歩下がると、
「先ほど仰ったマルタン復興事業について現地の建設業者との談合容疑だそうです。市中に大きく広まっているわけではありませんが、マルタンとその周辺都市の経済界では既に話題になっています。次なるコマースギルド代表の予想と、その者への懐柔のための奔走が始まっています」
と言って礼をして下がろうとした。しかし、ルカス大統領は「まて」と彼女を引き留めた。
「何故、君たちがそんなことを知っているのだ? アニエス陛下の居場所と言い、以前から何かと色々詳しいようだが」
「この娘たちはマルタンのメイドコミュニティに属していました。おそらく私がここにいるというのも、そこを通じて情報を仕入れたのだと思います」
ルカス大統領は身体をぴくつかせると「メイドコミュニティ、だと……?」と裏返った声を上げて立ち上がった。
「それはマルタン一地域で収まるものではない。分離独立前はエノクミア大陸全土に繋がりがあった。共和国にまでも耳があると噂もあったほどだ。
しかし、君たちはエルフではないか。あの組織は何百年も歴史がある。連盟政府なんぞより明らかに古い。我が家の使用人ですら参加できないというのに、容易に参加できたというのか?」
イルジナとマフレナは何も言わず、ルカス大統領を瞬き一つせず見つめている。
ルカス大統領は否定も肯定もしない二人の姿を見ると、それで全てを理解したのか椅子に座り込むと額を抱え込むように押さえた。
「何をやってるんだ、あのバカタレは……。メイドコミュニティの話は信憑性が高い。どうやら本当のようだな」
「そこで、大統領であるあなたに口利きがあったのではないかという噂も流れています」
「なんだと!?」と今度は飛び上がるような反応をした。
「そんなはずはない! 確かに幼なじみではあるが、仕事についてはわきまえている! 規制も強化した。独立以前のようなやりたい放題ではない!」
「ええ、把握しております」とイルジナは冷静に言った。少しばかり意地悪では無いだろうかと思ってしまった。
「私たちメイドコミュニティはそれについても確かな情報を掴んでおります」
「なら早く公表してくれ!」
「いえ、現状では何もするつもりはありませんね」
「何故だ!?」




