秋霖止まず 第二十八話
「悪は悪であるという毅然とした態度で帝政思想や連盟政府に屈しないという姿勢を見せなければ繰り返すと言われるかもしれないが、事実は事実として目を背けずに法での裁きを行わなければ法治国家ではない。
国政を滞りなく進める上で、無視することはたくさんあったし、これからもある。だが、あなたに限っては別だ。当事者があなた自身であることとイズミ君が絡んでいるからな。
あなた方が特別であるが故に、事実をよりはっきりとした形で、全国民が納得がいくほどに集めなければいけない。あちこちから色々と話を聞かなければいけないのだ。君だけではなく、マルタン事変で関係のあった者たち、死んだことにはなっているがウリヤ・シルベストレにも少しばかり話を聞かなければいけない」
「その様子では、聴取が行われるのは王宮関係者だけですか?」
「いや、民間にも話は聞く。それは当然だ。王宮関係者だけでは、対立していた陛下側と顧問団側のどちらに付いたかで視点が変わって来る上に客観性に欠けるからな。民間の声にも重点を置くというのも、最大の焦点なのが民間人の避難誘導についてだからなのだ。今のところ、避難誘導についてがあなたの立場を悪くしているのだ。よりよい判断を下す為に何とかしたいものだ。顧問団たちの話が聞ければいいのだが、残念だが半分は行方不明、半分は死亡ときたものでな」
またこの話か。うんざりしていたのを隠していたが、鼻から息を吸い込み、肩を下げて吐き出した。
「何度も言わせていただきますが、避難指示を出したのは私です。そして、誘導ではなく、命令としました」
「あなたがそう言われても、例のマルタンのコマースギルド代表が、顧問団たちの中にいた人間のおかげで生き延びられたと言っているのだよ。あなたを信用していないわけではない。だが、今は犯罪者だ。現地の有力者の発言に重きが置かれるのは当然だろう。
顧問団にいた二人の僑エルフ、確か……、フィツェク氏とアブソロン氏と言ったかな。あの二人は民間人を盾として利用することに積極的だったのだろう? そのような者たちが戦闘で命を落としてしまうなど、皮肉なものだな」
あの僑エルフ二人の顧問団は、眉間に皺を寄せて腕を組み物言わぬ重鎮のような尊大な態度をしていたが、最後の最後まで首を縦に振ることしかせず、自己紹介以降まともに声も聞いた覚えがない。会議で積極的に何かを推し進めようと発言をした記憶は全くない。意見を取り入れて貰えなかったにもかかわらず、私の方が話していた気さえする。とりあえずエルフを顧問団に入れておけば良いだろうという、私以上のお飾り官僚だった。
「お二人は残念ですがルクヴルール軍事顧問に殺害されました」




