秋霖止まず 第二十五話
「何もブエナフエンテの家に全員で押しかける必要はありません。ヘマさん、ヘマ・シルベストレに頼んでみては如何ですか? ヘマさんはマルタンで監禁されていたとき、男性使用人ばかりではなく女性も雇ってみるのもいいと言っていて、エルフ系メイドのことを高く買っていましたので。そちらなら拘束という名目は必要なく、雇用としても問題はないかと思いますが」
「ヘマなら私と仲が悪いというのが世間での一般的な認識だからな。なるほど確かに、大統領である私への当てつけでエルフを大勢雇ったという体に出来るかもしれない。それなら近親者とはいえ、問題は少ないかもしれないな。だが、ヘマ本人が望むと望まざると、触発されたエルフたちに担がれて私の対抗馬になられても困る。あいつは感情的な行動を採るように見られているが、由緒正しき五大家族の一家であるので実際はかなりのリアリストだ。しかし、乗せられやすい」
「ユニオンは民主的な国家でしょう。大統領選挙が行われ、対抗馬としてヘマさんが立候補しても、これまで通りにあなたが変わらぬ支持を得られれば良いのでは? 仮にヘマさんに大統領が取って代わられても、ヘマさんがリアリストであるならばユニオンの政策は保守的であることに変わりは無いでしょう」
「血と世襲で紡がれる陛下殿は、随分簡単に言ってくれるな」
マフレナとイルジナはその言葉に表情を厳しくした。私は二人に落ち着くように右手を下げる仕草を見せた。
「まったく、嫌味の一つでも言わせてくれ。つまり私に良い治世を期待しているというのか。以前の私なら任せろと大腕を振っていたかもしれないが、立場に就くとそれがいかに困難か分かったのだ。だが、それは必要不可欠なものだ。努力は約束する。
仮に、の話でも怖いものだが、確かにヘマは、私ほどでは無いが、大統領たり得る能力はある。エルフに担がれて当選したはいいものの保守的な政策を曲げずに、票田となったエルフ優遇政策はどうしたと非難を浴びそうなものだが」
ルカス大統領は首を素早く左右に振ると、気分を改めたようだ。
「いや、言い出したら切りが無いな。先を見すぎてしまっては足元が見えなくなる。今そこで掬われては元も子もない。仕方ないな。では、ヘマのヤツに連絡を取ってみるとしよう。言っておくが、期待はするなよ」




