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秋霖止まず 第二十三話

「アニエス陛下、ご機嫌麗しゅうございます。私たちあなたのメイドは、マルタンでの戦いの最中で陛下とはぐれてしまい、しばし暇をいただくことになってしまいましたことを、ここに深くお詫び致します。御身お身体、変わりないでしょうか」


「私は問題ありません。それよりも、あなた達は一人もかけずに脱出出来たのですか? 私はあなた達をメイドとして酷使しておきながら、その数全てを把握していたわけではないのです」


「お心配りに感謝致します。幸い、私たちメイド皆無傷で脱出することが叶いました。これもひとえに陛下が身を賭して訴え続けていた避難命令の賜でございます」


マフレナは「避難命令」と言ったときだけ、何やら声を強めて強調しルカス大統領を睨むような仕草をした。



門の前で立ちはだかっていたメイドさんたちはやはりマルタンでお世話になったメイドさんたちだった。代表者として前に立っていた二人は、思った通りにマフレナとイルジナであり、大統領府へ入ることを許された。

彼女たちは大統領府の応接室に入ると、ルカス大統領よりも先に私に挨拶をした。これまでどのように過ごしてきたのだろうか気になったが、表情にやつれた様子も服装に汚れも無く、上品で体幹にずれないカーテシーは相変わらずで、彼女たちも元気なのだろう。


「おい、君たち」とルカス大統領は腕を組んだ。


「済まないがここではこちらに従っていただこうか。アニエス陛下は確かにまだ陛下ではあるが、囚われの身であることを忘れてもらっては困る」


家主である自分を無視されたことに腹立ったのだろう。ムッとしたような表情を浮かべた後に強い口調になった。


「ルカス大統領閣下、本日はお忙しい中、陛下との面会の機会を設けていただき、ありがとうございます。私たちは陛下にお仕えする身であり、雇用を打ち切られた覚えも無く、そして、まだ陛下が陛下である以上、私たちも陛下に従わなければいけません」


ルカス大統領は予想外の二人の上品な対応にばつが悪くなってしまった。


「ルカス大統領、申し訳ないです。私の方からメイドさんたちには指示を出します」


「そうしてくれ。主を優先するのは当然と言えば当然だからな」


「マフレナ、イルジナ。お聞きなさい」と呼びかけると、二人は同じ動きをして私の方へ振り返った。


「外の子たちはどうしましたか? まだ暑いですから、待たせていたら倒れてしまいますよ。門前の広場は木や建物がなく影がありません。服装も黒く、薄着ではないでしょう」


「ご心配には及びません。失礼かとは思いましたが、私たち二人以外、全員一度宿に戻しました」


「それはよかったです。正しい指示を出しましたね。さすがです」


「お褒めにあずかり、光栄でございます」


「さて、ルカス大統領が仰ったとおり、私はマルタンの地を不当に占拠した、ユニオンにとっては不逞の輩であり今や囚われの身であるにもかかわらず、大統領のご厚意により日々ある程度の自由を与えられて過ごしています。そして、私はまだ確かに帝位を放棄していません。私に従ってくれることはメイドの務めであるのは間違いありませんが、私は国を捨てたに等しいようなことを大々的に言ったにもかかわらずあなた達が私に従ってくれることを非常に喜ばしく感じております。ですが、囚われの身である以上、私はユニオンの法に従わなければいけません。よって、あなた方メイドも私よりも優先して大統領の指示には従ってください。幸い、このルカス大統領を始めとしたユニオンの政府関係者の方々は皆良識を持っています。人の道を踏み外したり、権利を蹂躙したりするようなことは決して言いません。よろしいですね?」


「かしこまりました」



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