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秋霖止まず 第二十二話

側近だけかと思っていたが、入り口のデスクにいるはずの受付嬢がその話合いの群れに一人混じっていた。

守衛と連絡を取りながらなのか、腕につけたキューディラを光らせたまま焦ったように手を動かしている。


「何だ? デモか? 難民政策が気に入らない者たちがデモ行進するのはいつものことじゃないか。しかし、今は時勢が不安定だ。集会で混乱が起きれば伝播した挙げ句にマズい事態を引き起こしかねない。ましてやエルフで、さらに大統領府前となるとますますだ。すぐに解散させろ。だが、無茶はするな。エルフ相手に暴力的な対応を取れば事態がややこしくなる」


「いえ、その、どうもデモではないようなんです。プラカードも何も持っていないので」


「じゃあ何のようだ? 襲撃か?」


「暴力的な雰囲気ではありません。統率がとれていて、暴れ出すようなことも無さそうです。ですが、それがかえって不気味というか。それで、あの」と言うと、受付嬢はルカス大統領の耳を寄せるような仕草を見せた。両手で囲うようにすると、こそこそと何かを言った。それを聞くとルカス大統領の視線ははっきりと私の方を向いた。


「何故ここにいることを知っているのだ? ただとにかく解散させなさい」


ルカス大統領は困ったような顔をしている。

横を通り抜けながら聞こえた話では、昨日街を騒がせたメイドの一団が宿を引き払うと一斉に移動を始め、迷うことなく大統領府の前にやってきたようだった。

先ほど、パウラ夫人が言っていたことから新たな展開があったようだ。


仕草でしか分からないが、おそらくひそひそ話の中に私の名前が入っていたのだろう。ルカス大統領や側近たちはそちらで済ませてしまおうとしているようだ。

エルフ系のメイドさんの話であり私が関連していることとなれば、あの集団はあの子たち以外には考えられない。他人事ではないような気がしたので、窓から門前の広場の様子を覗いてみた。

そこでは代表者とおぼしき二人が前に出て、その後ろで他のメイドたちが整列していた。目を細めてみたがここからでは距離があり顔を認識することは出来なかった。だが、前に出ている代表者二人のたたずまいには特に見覚えがあった。


「あの、よろしいですか?」とひそひそ話に遠巻きに切り込んだ。ルカス大統領と側近、それから受付嬢が一斉にこちらに振り返った。そこに並んでいる表情には、私のアクションを待っていたかのようにも見えた。


「私、彼女たちに心当たりがあります」


「あなたは関係ない、と言いたいところだが、どうもそうではないようだな。あれは一体何者だね?」


ルカス大統領は早速と尋ねてきた。


「おそらくですが、あの子たちはマルタンで私の世話をしていたエルフ系のメイドさんたちです」


「何故、ここにあなたがいることを知っているのかね? 密かに外部と連絡でも取ったのか?」


「いえ、まさか。それは禁止ではありませんか」


「それはそうだろうな。あなたの監視係からそう言う報告は受けていない。しかし、こうも堂々と現れてはこちらも動きづらいな。何とか追い払えないのか? このところのエルフへの風当たりを知っているだろう? あまり大統領府の前で行動を起こされてはマズいのだ」


「確かにそうでしょうね。ですが、一度彼女たちを中へ入れてはいただけないでしょうか? 話をするにも、門前で追い払うようなのはかえって印象が悪いです」


「それは厳しいな。エルフの不満がなだれ込むきっかけになられては困る。それに、おそらく程度の認識でここに招き入れるわけにはいかない。保安上の問題がありすぎる」


「では代表者二人だけはダメですか?」


ルカス大統領は額を押さえて、うーむと悩むようなうなり声を上げた。しかし、事態の収拾が早く付かないのは困るのだろう。顔を上げると「代表者二人はあなたの知り合いかね? それが確認でき次第なら、二人のみ許可しよう」と言った。


「分かりました。窓から姿は見えたのですがあまりはっきりと判別できなかったので、もう少し近くまで行けませんか?」


「仕方ない。護衛、アニエス陛下をあの集団の見えるところまでご案内しなさい」



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