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秋霖止まず 第二十一話

その日、ラド・デル・マルの街は騒然としていた。

夏は盛りを過ぎたが、まだ暑く陽炎揺れるアスファルトの道を、規律のとれた一団が闊歩していたからだ。

四角く大きな年季の入った革の大きな旅行鞄を持ち、陽射しが強いにもかかわらず黒い長袖、ぞろりとしたロングスカート、上品な大理石の一塊から削り出された彫刻のように綺麗にまとめられたシニヨンと、そして、その下から隠すこと無く出た尖った耳。


それはエルフのメイドたちだった。


彼女たちはケーブルカーの停車場に着くとぴったりとした等間隔で並び、ケーブルカーが来ると一人ずつ丁寧に乗っていった。決して広くはない車内で整然と立ち手すりを掴んで、時折揺れる車内で微動だにせず、目的地へと向かっていた。


そして、大統領府近くの宿を丸々一棟貸し切ってそこにその集団が宿泊した――。


パウラ夫人はウワサが好きだ。今朝、朝食を食べながら嬉しそうにそんな話をしていた。

パウラ夫人は元はブエナフエンテ直営のカフェの店員だった。珈琲豆の営業でかつてはエノクミア大陸を股にかけていた。そして、ルカス大統領を通じてマゼルソン法律省長官とも旧知の仲だ。共和国のことを未だに帝政ルーアとときどき間違えて呼ぶことがあるので、おそらくただの店員ではないのだろう。


いつもは子どもたち、ルシアノ、ローサ、ラウラと朝食を共にしているのだが、三人は急いで出かけていったと言って、私は夫人と二人で朝食を摂っていた。

ダイニングに同じタイミングで現れ、同じタイミングで食事を始めたので、話し相手がいない、というよりもどうも私と話がしたいような雰囲気があった。


かくいう私も、エルフ系のメイドと言えば思うところがあった。もしかしたら夫人は何かを知っているのかもしれない。しかし、私自身に確証はなく、ただ噂話を聞いたと言うだけになった。


その日も私は大統領府へと赴くことになっていた。

移動魔法で本宅から大統領府へと向かい執務室に入ると、ルカス大統領は側近たちと部屋の一角に集まり何やら神妙な顔で話合いをしていたのだ。

ドアを開けた私をちらりと見て、ああおはようと挨拶をすると再び側近たちと話をし始めた。


「大統領、あの、エルフ系のメイドが、その、門の前で大挙をなしているのですが。いかが致しましょう」



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