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秋霖止まず 第十八話

怒鳴り声の後に会議室がこれまでに無いほどに静まりかえると、誰かのソーサーの上からスプーンが落ちる音がした。


「たったそれだけで、たったそれだけの理由で、我々がここまで懸命に治療を続けると思っているのか! 彼を救う為に共和国との交渉までしているというのに!」


これまでに見たことも無いような凄まじい剣幕で睨まれてしまった。あの温厚なルカス大統領がこのような表情を見せることなどあるのか。私は驚きと恐怖に気圧されて言葉が出なくなり、杖の柄から手が離れた。

私の様子を見たルカス大統領は「警備、下がれ」と言うと大きく咳払いをした。


「怒鳴り声を上げて済まなかった。今は国土無き国とはいえ、帝政ルーアの皇帝にむかって人前でこうも声を荒げるのは、些か失礼が過ぎたな」


部屋の角にいた使用人に布巾を手渡されると、転がったカップを起こしテーブルを拭き始めた。


「さて、話を聞いていただこうか」


テーブルを拭き終わったルカス大統領は布巾を丸めて使用人に返すと、背筋を伸ばした。


「結論から言えば、私はイズミ君を共和国で本格的な治療を受けさせたい。だが、すぐには出来ないのは理由があるのだ。というのも、共和国側は要求を突きつけてきたのだ」


先ほどよりも低い声でゆっくりと言われると、私の興奮も押さえ付けられるようになった。

平静を装えるほどには落ち着きを取り戻したので「どのようなものですか?」と尋ね返した。


「亡命政府の規模は小さくはなかっただろう。それはあなた自身でもよく分かるはず。亡命政府に参画した者たちの多くが帝政思想(ルアニサム)なのだ。そこで、あなたは唯一世界に向けて放送されたあのスピーチの最後でなんと言ったか?」


「亡命を希望すると言いました」


ルカス大統領は深く頷いた。


「共和国に、だろう。そうであるにもかかわらず、いつまでユニオンが拘束しているのか、疑問に思わんかね?」


そう言った後に、試すように小首をかしげ眉間に皺を寄せて見つめてきた。

すぐには分からずに黙っていると、ルカス大統領は話を続け「亡命者であるあなたの望んだホスト国、つまり共和国があなたの受け入れについて何も言わないのだ。議論をしていないのではなく、意図的にしないでいるのだよ」と困り果てたように目をつぶり首を左右に振った。


「何故です?」


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