秋霖止まず 第十三話
翌日、早朝から大統領府に呼ばれ、自らの足――といっても移動魔法で向かった。
その場で私にこれから何が課されるか、すべきかを説明された。法による裁きはまとまってから改めて行うらしい。
早速、騒動の処理の方向性を決める会議に参加することになった。
ユニオン民議会も参加している会議で話し合われたのは、まずは亡命政府軍兵士たちの扱いについてだった。現在、捕虜として各地の収容所に集められている。国家同士の交渉であれば、捕虜の交換と言うこともあったかもしれない。しかし、亡命政府は私自身が放棄した為に既に国家として存在していない。
兵士たちは全員エルフであり、かつて難民であり帝政思想という思想云々よりもより豊かな暮らしを求めて兵士になった者がほとんどだった。
思想の影響が少ない者は、これまでのユニオンでの難民エルフ政策の対象者として扱うべきではないかと私は提案した。私は素人として扱われていたが、マルタンでの顧問団のように意見を全く聞かれないということはなく、大統領をはじめとしたユニオン幹部は会議での発言権を与えられた。
しかし、彼らは私の意見を聞いたときに渋い顔をした。
彼らの言い分はこうだ。これまで通りの難民政策は、難民自身の選択制であり、制限付きでユニオンに帰属するか、共和国への送還のどちらかである。
しかし、騒動以降の共和国への送還は、これまで以上に困難を極めることが予想され、現にマルタンの件とは無関係だった難民エルフのうちで送還を求めていた者たちが港や空港で足止めを喰らっているのだ。言わずもがな、マルタンで暴れたのは帝政ルーアの者たちであり、共和国はユニオン以上にナーバスになっているのだ。
送還を選んだものの、現地に身内がおらず、生活の当てもない状態になったとき、帝政思想を掲げる者たちが近づき反共和国的なことを吹き込んでテロ行為に走らせる可能性があるからだ。
それへの対策として、送還か帰属のどちらかを選ぶときの判断材料としての共和国内での身内などの引き取り手の捜索や募集を行うことを共和国側が行うことを決めたが、人数も多く予算の確保が必要であり今のところ順調ではない。
一方、ユニオンへの帰属は従来通りの制度を維持されているが、やはりマルタンでの一件により監視や制限が多く付くことになった。加えて、ユニオン国民のエルフへの風当たりは確実に強くなっており、窮屈な生活を送ることになるのは目に見えている。
現時点において、何の解決策も出せていないのである。事態が済んだ翌日での早々の決定は判断材料が乏しく出来ないということだ。
それ以上に難航しそうなのは、帝政思想を明確に掲げていた者たちについてだ。
亡命政府の幹部クラスが多く、その内訳はエルフと人間の割合が半々となっている。エルフの国の思想にもかかわらず帝政思想を掲げる人間たち全員は、自分の権利や利益のみを考えているのは間違いないので、そのまま拘置所で法の裁きを受けさせ関係国以外への国外追放、つまり、連盟政府への強制的な(もちろん非合法的な手段での)送致や情状酌量無しの禁固刑を科して政治犯収容所に放り込んでしまえば良い。しかし、幹部にいたエルフの扱いについては困難なのだ。本人が帝政思想に敬虔である場合も少なくないからだ。ユニオンとしては、マルタンのようなことを再び起こす危険性があるために、一刻も早く国外に追放してしまいたい。難民政策の対象として、強制的かつ可及的に共和国への送還をさせたいところだが、共和国側もそのような連中を国内にわざわざ招き入れたいなどと思うわけもない。
連盟政府に送るにも、そうしてしまえば再び難民エルフを生み出すことになるのでそれも出来ない。
どちらも安易に死刑にすることは、「天国も地獄も無い。生きてこそ幸福を味わうことが天国であり、罪は生きて償い現世で地獄の苦しみを味わうべき」というユニオンの倫理観に反しているので不可能なのだ。
こちらの議論は今後も継続して行われることになった。




