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血潮伝う金床の星 第三十話

 いつの間にかついていた照明のおかげで気が付かなかったが、ベッドから見える窓の外はすっかり暗くなっていた。もう夜になったのだろうか。ぼんやり外を見ているとドアがノックされた。対応に追われたシロークが少し疲れた様子で部屋に戻ってきたのだ。銀色の膿盆を持っていて、それに何かを載せてきたようだ。カタカタ音を立てている。ククーシュカに外してくれるかと伝えて彼女が出て行くのを見届けると、持っていた膿盆を棚の上に置いてベッド横の椅子に腰かけた。


「イズミ君、やってくれたな。マリークが杖をくれとせがむんだ。君のようになり、君を守るためと言ってきかないんだ。もう無事だとは言ってあるんだが、まだ興奮気味でね、……」


 息子の無事と成長を目の当たりにしたせいか、嬉しそうにそう言った。


「あぁあ、これでますますあんたは金融のトップにならなければいけなくなったな」

「どうしたらいいものか。共和国では杖など手に入らない。そういうのは早い方がいいだろう?」

「その辺は分からないなぁ。俺が杖を手にしたのは二十歳をとっくに超えてた。欲しいと望めば遅かれ早かれ杖は向こうからやってくるから、焦らなくていいと思う。それに杖製学なんてものがあるが、珍しいものをぐちゃぐちゃに混ぜ込んでもそれなりのものができるらしい。アニエスなんか自作だぞ。ギンスブルグ家は見たとこお金持ちだし、珍しいものたくさんあるんじゃないの?集めて混ぜれば、ハイ出来上がり!」

「息子に持たせるものは“それなり”では嫌なのだよ。それに君は確かに素晴らしいが、君以上になってもらわなければな」

「はははっ、さすが過保護! あいててて……」


 声を出して笑った俺を見てシロークはため息をした。


「どうやら元気そうだな……。安心した。だがそんな体ではマリークの護衛はできまい。幸いにも学校はあと数日で長期の休みが始まる。何が起きるかわからないから息子をどこへも連れていけないのはかわいそうだが、その代わり君はゆっくりできる。養生したまえ」

「出歩けるぐらいになったら、遊び相手はするさ。それにカミュがいる」


 しかし、カミュの名前を出すとシロークは渋い顔をした。


「あの女剣士か……。いや、悪くない。マリークも君がいないとすぐあの女のところに行ってしまうくらいだ。息子も気に入っている様なのだが……悪くないのだが……」


 うなだれるように額に手を当ててしまった。

 生き死にについて心配ではない、口に出しづらい別の方向の心配をしているのだろう。だが、カミュも大人だ。自制ができないということはないだろう。そこまで心配してしまうほど息子が大事なのだろう。それに大事な彼をほかの人に取られてしまうのではないかと、気がかりでもあるのだろう。もちろんだが、そんな心配も必要がない。


「……どうも、マリークは……あの女剣士と遊ぶとき……、女中の恰好をさせている……、らしいんだ……。それに女剣士の方もノリノリらしくてな……」


 アウト。スケベなマセガキめ。メイドコスプレとはうらや、許さん。


「ごめんなさい。うちの部下が大変申し訳ないことをしてしまいました。重々注意しておきます……」


 この場合、黙ってはいけないのだが、気まずい沈黙が訪れてしまった。マリークがイケナイことをしている方向に考えているのが悟られてしまう。

 動かせない体の代わりに視線をあちこちに泳がせ言葉を探していると、ノックと同時にドアが開いた。そこには柳眉を逆立てた女性が腰に手を当てて立ちはだかっている。少々乱暴に入ってきたのはユリナだ。実にいいタイミングで現れた。


「おい、イズミ! なんでカールニークのガキと面識があることを黙ってたんだ! マリークまで危ない目にあったのはお前にも原因あるじゃねぇか! ふざけんなよ!」

「リナ! よせ! イズミ君は子どもを巻き込まないようにしただけだ! それに今回は二人とも死にはしなかった。彼なりにマリークやそのほかの子どもの未来を守ろうとしたんだ。責めてはいけない! 落ち着いてくれ。彼は負傷者だ。要件はなんだ?」


 ずしずしとベッドに近づいてくる彼女をシロークは静止した。抑えられた彼女はベッドに両手をつき、首を傾けてのぞき込んできた。


「……ったく今回は何もなかったからいいが、さっさと増えたケツの穴、クソが出てくる前に塞げよ。早くしねぇと肩からケツ毛が生えちまうぜ。カールニークのクソガキのことを後で詳しく聞かせろ、いいな?」


 そういうと大きく息を吐きだして部屋をあっという間に出て行った。


「要件はあれだけか……」

「いや、違うな。彼女はああ言っているが、心の中では君のこともかなり心配している。許してやってくれ」

「言われなくても、なんとなくそれはわかるようになってきたから大丈夫」


 お互いに笑いあった。だが、シロークはすぐに表情を変えて立ち上がり、棚の方へ向かった。

そして、「ところで、君は重大な証拠を持ってきてくれた。おかげでただ躓くだけではなくなった」と背中越しに言った。


「どういうことだ?」

「君を貫かなかった弾丸のことだ。治療の際に回収した。まだ多少血が付いているが見るかね?」

読んでいただきありがとうございました。感想・コメント・誤字脱字の指摘、お待ちしております。

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