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共和制記念病院にて 最終話

「これから被疑者招致詰問だが、まぁ、茶でも飲みながらちょっとお話しして、後はダラダラ病室で時間を過ごして貰うだけだ。

 お前はマルタンで暴れる前に、私ら長官とルカス大統領とイヤというほどに顔会わせてるし、話もしてる。こっちも聞くことも話すことも大してない。現地で何やったのか、テキトーに調書作って終わりだ。

 それからはお前は療養な。三食残さず飯食って、テキトーに身体動かして、中庭でハープの演奏会のんびり聞いて、夜はぐっすり寝ろ。

 身体に負担がかかるし腎臓がやられてっからメシは、残念だがお前の大好きな味の濃いモンとか脂っこいモンはなしだ。それにちっとばかしマズいが我慢してくれ。

 野菜しか食べない金属が嫌いな古典エルフの精進料理だと思って我慢してくれ。身体の方が大事なんだからな。

 それから言わなくても分かるだろうけど、病室から単独での外出は禁止な。治療にゃあ大敵のストレスが溜まるだろうから出るのは許すが、出たけりゃあウチのメイドと一緒に動いてもらう。

 監視係ってことで日替わりで一人付けてやるからよ。いくら美人揃いだからって手ェ出すなよ?」


 冗談っぽく笑いかけてきたが、受けを狙ったり皮肉だったりではなく、励まそうとしているのだろう。瞳の奥に憐れみが見え隠れしている。


「そんな血の巡りが良くなりそうなことしない。しんどくて無理だ」


 ユリナはハッと鼻を鳴らした。

「それだけ言えりゃあ、充分だ。落ち込んで立ち直れないような廃人にはならなそうだな。税金で廃人の面倒見なくて済んだぜ」


 時間は無い。無いのはそれだけではない。時間が無いなら絶望しているような暇も無い。

 少しでも速く治して、せめて動けるくらいにはなって復帰しなければいけない。

 ムーバリは俺にかつて言った。「絶望して立ち止まるのではない。立ち止まるから絶望するのだ」と。今の動けない俺に何が出来るか。

 何も動かないことが立ち止まることと全て同義ではない。とにかく身体を治すしかないのだ。治して、動く身体を作らなければいけないのだ。

 リハビリは、歩けるだろうか。腕は曲がるだろうか。時間は無いが、一つ一つだ。

 気持ちを持ちなすように両手で顔を叩いた。


 ユリナはいきなり顔を叩いた俺を驚いてみていたが、すぐに前を向いたことに気がついた様だ。軽く肩を叩くだけで、何も言わなかった。


「色々どうなった? アニエスは? マルタンは? それだけじゃない。調書取りが終わるまで、やっぱりまだ言えないか?」


「いや、ここまで言っちまったからなぁ。仕方ねぇから、お前さんが気ィ失ってからこれまでの間に何があったか、全部詳しく話してやるよ。これから被疑者招致詰問だってのに、私も馬鹿なモンだぜ」


 ユリナはベッドの脇に置かれている長椅子にどっかり腰を下ろした。大きなため息をゆっくり吐き出した後に「しかし、なんで宣戦布告にまで至っちまったのかね、全く」と窓の方へ顔を向けた。

 病室が静まりかえると外の雨音が聞こえた。だいぶ強く降っているようだ。


 長い雨になりそうだ。

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