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共和制記念病院にて 第五話

繰り返し言葉と表情だけで詰め寄ったが、ユリナは頑なだった。

動けもしないのに声を荒げ続ける俺を哀れむように見た後、ため息を溢して前髪を掻き上げた。


「お前さ、なんでここに杖無いか、不思議だと思わないか?」


そうだった。怒りで忘れていたが、俺は杖が魔法が無いことに禁断症状を起こしていた。

無い事を再び意識の中に放り込まれて、一度は引きつるような虚無感と恐怖に再び飲み込まれそうになった。

だが、この場に無い理由を知っているような言い方に、まるで玩具を取り上げられたときのような怒りを覚えた。


「そうだ。なんで杖がないんだよ? 隠したのか?」


みっともなく怒鳴りそうになったが、怒りを抑え込み、顎を引いて低い声でそうたずねるだけにした。

ユリナは鼻から息を吸い込むと、視線を左右に泳がせて視線を離そうとした。


「杖な。それは私んちにある」


「なら返せよ!」「バカが、最後まで話は聞け」と右手を前に突き出した。


「お前さ、話がさっきからあっちこっちに飛んで申し訳ないけど、この間のマルタンでの一件、どこまで覚えてる?」


「ダムの修理をした後だ」


「なるほどなぁ」と小刻みに頷いた。


「カミュの報告通り、思いっきり吐血した後か」


俺はダムの応急修理の途中に天地がひっくり返るような目眩に襲われた。三半規管がおかしくなったわけでもないのに、上がどちらか分からなくなった。仕舞いにはその場に立っていられずに跪いた。それでも身体を支えられずに手を突いて四つん這いになっていたとき、狭くなっていく視界には地面が見えていた。ダムの天端は白いコンクリート製だったが、それが見る見ると赤くなっていくのを見ていた。それが自分の血液であることは分かっていたが、何か映画のスクリーンを通して見ているようで、自分に起きている事態が理解出来なかった。

それでもダムを直そうと杖を握りしめてから、記憶が途切れている。

そして気がついたら、ここにいたのだ。


「よく頑張ったよなぁ。カミュの話じゃあ、お前さん、その後も必死になってダム直してたそうだ」


ユリナはそう言うと黙り込んだ。聞こえてくる雨音に耳を傾けているかのように静かになった。


「お前がマルタンの全戦闘で落としちまった血の量はハンパじゃなかったんだ。ユニオンで治療してたが、ギリギリの状態だった。で、共和国に来て高度な治療が始まってから輸血が必要になった。そのときにエルフの血をたくさん輸血したんだよ。こっちもクーデターがあって怪我人もそこそこいて血が多くは無かった。それでも無理矢理手配したんだよ。それで、魔法が使えなくなってる。使えなくなっても、レシピエントには感謝して貰いたいもんだぜ」


「そんなはずない。俺は選挙期間中に撃たれたときにもエルフの輸血したじゃないか」



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