驟雨の幕間 最終話
「ワケわかんないこと言ってんじゃないわよ!」と指先で灰が伸びるタバコを吸わずに怒鳴り続けた。
「あんたも関与してるんなら、あんたがやりなさいよ! シバサキはあんたの上司なんでしょ! もっとシバサキの負の感情煽るとか努力しなさいよ! 努力してからそういうこと言いなさいよ!」
「なんだかシバサキみたいなこと言い始めたな。さすが、守護女神さまなだけあるな」
舌打ちをすると「じゃここでずっと寝てるのを見てなさい」と言って、座っていたベンチの上に灰を落とした。
そして大きく吸い込むと目をつぶった。
「でも、それじゃ面白くないわねー」と煙を吐き出した。
「じゃあ、あなたに何か特別な能力を上げる。能力がいらないと言い張ったあなたは、それが一番嫌なんでしょ」
「愛の女神って言うのは、人の嫌がることをする神様だったのか。シバサキにはお誂え向きだな」
一度はタバコによって落ち着いていた女神の組んでいた足先が再びパタパタと強く揺れ始めた。
「選びなさいよ。ここで自分が死ぬまで眠り続けているのを見ているか、全人類全エルフの共通の敵になるような力を手にするか」
「永遠に寝てるのは嫌だな。その力ってのは俺が選んで良いんだな?」
「それくらいは譲歩してあげるわー。さっさと言いなさいよ」
タバコをベンチに落ち着けて消した。吸い殻はベンチの上でくの字に曲がったまま立っている。
「そうだな。折角だし、あんたが愛の女神であることを見込んで頼もうか」
「今回はそれダメー」と先ほど握りつぶしたタバコのミント色の箱のゴミを投げつけてきた。
「前回されたことをまたされるわけにはいかないものー」
右手ではたき落とし、屈んでその箱を持ち上げて左右を見渡した。
ゴミ箱は見あたらない。あったとしても入れられないだろう。とりあえずそのまま持ち続けた。
「そうか。残念だな。じゃ、この女神の支配する超空間から出る能力をくれ。神様の言うことを無視して元に戻ろうとする力なんて、普通の人間じゃ手に入れられないぞ。しかも、神様を裏切るんだ。如何にも魔王様らしいじゃないか」
その瞬間、腹部を思い切り蹴られた。受け身を採れずに後ろに倒れていく刹那、愛の女神が眉間に皺を寄せているのが見えた。
ついに愛想を尽かされて、無理矢理帰されたようだ。




