驟雨の幕間 第七話
「さて、さっさと俺を帰してくれ。いつまでも自分が寝てる姿を拝んでるなんて生きた気がしない。そのうち戻れなくなりそうな気がして不愉快だ」
女神は組んだ足先をぱたぱたと揺らしている。先ほどから握りしめていたシバサキとの契約書を降り始め、紙飛行機を作った。人差し指と親指で摘まんで持ち上げると、こちらに向かって投げてきた。
身体を右に傾けて避けた。だが、そいつは不自然に直角に曲がり、左上膊にチクリと先端をぶつけて地面に落ちた。
「じゃ、あなたはそこでいつまでも眠り続けることになるわね。シバサキがなれないなら、あんたがなりなさいよー。世界の恨み全てを背負って、そこにいる生き物全てから疎まれる共通の敵になりなさいよー」
そういうと髪飾りの間に手を突っ込み四角い箱を取り出した。大きさからしてタバコの箱を取り出したようだ。ミント色をした箱に小さく三叉戟を持ったキャラクターが描いてある。
トントンと箱を叩いて一本取り出すと、加えて火を点けた。最後の一本なのか、箱を握りつぶして捻った。火が付くと煙臭さの前に煮詰めたアメリカのグミの様な臭いが喉の奥に纏わり付いた。
女神というのは皆基本的にヘビースモーカーのようだ。だが、この愛の女神はことさら独特な嗜好のようだ。
「無理だ。人格的に無理。シバサキの方が向いてると思うぞ。あのオッサン、あんたたちの目的を叶える為の存在なのかもしれないけど、当人が何がしたいんだか俺には正直分からないんだ。何となく、目的とかどうでも良くて目先のワガママを通す為だけに後先考えないで力を振りかざしているとしか思えない。それとも、本当に何にも考えてないのか。魔王ってのは、王って単語が立場名につくだけあって、知識もある者っていう風に思われがちだ。でも、実際にただ悪を振りまくだけの魔王なら、そう言うヤツの方が向いてるだろ。だから今まで通りに力をあげればいいじゃないか。あんたは人選ミスはしてないと思うけど」
煙でしかめていた眉でそのままこちらを見ると、
「今実際、全然出来ていないじゃないの! シバサキがその共通の敵としての魔王の役割を! そこ、アンタどうすんのよ!?」
と凄まじい剣幕で怒り始めた。やはり愛の女神なだけあって、思い通りに行かないとすぐに怒り出す。
「知らない。あんたがシバサキ選んだんだから、あんたで最後まで何とかしろって。それ、商店街の惣菜屋に行ってファミ○キくださいって言って、無いからキレてるようなもんだぞ」




