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驟雨の幕間 第六話

もしかしたら、俺が求めているのは平和ではないのだろうか。ひょっとすると、調和の方が近いのではないだろうか。


そうだと仮定してみよう。

調和のあり方なのだろう。バランスを取る為にどこかで争いをするような調和ではいけないのだ。

見せかけの正義によって秩序が保たれた平和に見えていることが、調和なのだ。

それを実現すべきなのだ。


「ちょっと、一人で考え込んで私を置いてけぼりにしないで欲しいわー」


俺は膝に肘を突いて考え込んでいたようだ。

顔の前を掌が通過していった。はたと顔を起こすと、女神は困った顔をしていた。


「今気がついたが、俺も調和を求めてるのかもしれない」


「あら、そう!?」と飛び上がるようになり、声が裏返った。

わたわたと慌てるように動き出すと、どこからか書類と羽ペンを持ち出し、ベンチに置いた。

「じゃシバサキなんて扱いづらいのさっさと放ったらかしてあなたに」と言いながら、別の書類を取り出すと、紙の横の真ん中を両手の親指と人差し指で摘まむように持ち胸の高さまで上げた。

おそらくシバサキとの契約書のようなものだろう。それを引き裂こうとしているのだ。


「待て。愛の女神ってのはせっかちなのか? なんで極論に飛びつこうとするんだ」


「愛に必要なのは、勢いとハプニング。熟考する愛は愛ではなく、戦略。愛って言うのは瞬間的なもので儚いのよー。でも何かしらー? 聞いて上げるわ。受け容れるのも、また愛ですものー」


一度は破く仕草を辞めたが、今度は角をつまみ上げ、その対角線上の角の下にライターをかざし始めた。


「あんたのやり方に、俺は賛同できない。争うだけ争わせて、後に残った調和なんてのは灰でしかない。俺は調和は調和でも、平和的な調和を実現したい」


ライターの火が揺らす空気の中で紙をゆらゆらと揺らして煽り、俺の方を見てにやつき始めた。


「不死鳥は灰の中から復活するのよー。永遠に存続する為には死を経験することが必要なのー。愛の女神の言う調和(ハルモニア)って言うのは、何もかもが灰になるまで戦った後、生きることさえも辛い世界で生まれる互いを思いやる“愛情”によって世界が再生していくということなのー。荒廃した世界で生きる為に自らの欲にまみれる人もいるでしょうねー。でも、世界は必ず再生する。誰しも愛されたいという愛情を持って生まれてくるのだから」


「性善説だったっけ? 如何にも愛の女神らしい考え方だ」


「そうねー。私は愛によって生まれた神様だからー」


「俺はアンタの考えには賛同しない。だから、シバサキの面倒はみるんだろ? シバサキに世界をぶっ壊させるなら、俺はそれを全力で止めるだけだ。あんたは止められないから、シバサキを止めるんだ。

でも、シバサキを全人類全エルフが恨むような魔王様にするのは残念ながら無理だろうな。こっちの世界に来て思ったよ。創作によくいる魔王たちってのは、描かれなくても背負う苦悩とそれを改めようとする使命を抱いてるんだよ。

だけど、シバサキにはそれがない。ただわがままを振り回してるだけだ。そのわがままも、なんだか違うんだよ。空回りしてるような。とにかく、違うんだ。

所詮は自分のことしか考えていない奴に魔王なんてなれやしない」


話は終わった。そろそろ身体に戻って起き上がりたい。

終わりの一本締めのように両膝を叩いて立ち上がった。



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