裏切りの代価 第七話
警備兵たちはざわつき始めた。明らかに先ほどの強襲への覚悟と言う雰囲気ではなくなり、自分たちの身内にまで調べが届いていることへのただの動揺だけになっていた。
「どこからどこまでも残念なヤツだ。お前の負けだよ。……いや、負けではないか。最優秀主演俳優賞モノだな。ブタ箱に放り込んだ後に金メッキの銅像差し入れてやるよ」
私は軽く拍手を送ってやった。だが、一人それでも顔を真っ赤にしたままの奴がいた。
「この場にはまだ私がいる! 今ここで貴様を殺せばそれでクーデターとして成立する! 軍を掌握して他の全てを抑え込めば良いのだ! 敗北を確信した者こそ勝利を得るのだ! ははは! トップというのは指示を出す能力しかない! 強さは銃の前では等しく平等! 女一人弾き飛ばしてくれる!」
フラメッシュ大尉はそれを聞いてムッとした表情を見せ、銃を持ち上げて一歩前に出た。そして、「奥方様に失礼だぞ。無礼者。この方は軍部省の……」と銃口を隊長殿に向けた。
「フラメッシュ大尉、大丈夫だ」と呼びかけると困ったような顔でこちらを振り向いた。
「こいつらは私の実力を知らないンだな」
腰に着けていた杖を持ち上げた。そして、見せつけるように机の上に横に置き、柄をゆっくりと握った。
隊長殿や隊員たちは警戒し、銃を一斉に私に向けた。だが、まだそこには余裕が見えている。
「勝利も敗北も、最初から無い。全てシナリオ通りだからな。私の作ったお芝居の中でよく動いてくれたよ。話の通りにうまくな。台本通り過ぎてどっかで失敗してくれたほうがエンターテインメント性があるってもんだぜ。さすがにさっきの狙撃はビビったがな。
芝居ってのは観客に夢を与えるものだ。だが、夢を見ていないヤツが観客に夢を与える事なんざ出来ない。監督脚本演出として、この夢の無いお芝居に幕を下ろすと……」
杖を持ち上げようとした瞬間、机の真横に突然ポータルが開いた。
「リナ! 君の部屋はなんて汚いんだ! 全然見つからなかったぞ! 今日こそは言わせて貰う! ジューリアにも言われたんだぞ! ここは一つ、旦那様からリナにビシッと言ってくれって……あれ?」
シロークが捜し物を見つけたのか、見つからなかったのを言いに来たのか、ひょっこりポータルから顔を出したのだ。ダサいセーターを着てまぬけた顔をしながら執務室の中をキョロキョロと見回している。
ため息が出てしまった。頭を抱えて「頼むぜ、シローク。お前、ホンッットに空気読めないな」と鼻で笑ってしまった。
「貰ったァァァ! 愛国者に勝利の女神は微笑む! 真の愛国者は私だ!」と隊長殿は絶叫しシロークに銃口を向けた。
同時に銃声が響き、直後に水風船がはじけ飛ぶような音がした。




