裏切りの代価 第二話
狙撃部隊にキューディラを繋ぐと、若い男の声が聞こえた。
「マリークか? 今何が起きた? 説明しろ」
「撃たれました! 皇帝が! アニエスさんが!」
「誰が撃った? 指示を出していないのに誰が引き金を引いたんだ!?」
マリークは一度黙り込んだ。そして、「……オリヴェルです」と悔しそうに言った。
「ママ、ごめんなさい。僕は止められなかった」
「わかった。とりあえずオリヴェルを取り押さえろ」
赤髪の女が撃たれたとなるとマズい。イズミも暴走する。
クソ、これは想定外だ。何故オリヴェルは引き金を引いたのだ?
「狙撃部隊、いや、ギンスブルグ女中部隊! 現状を把握して伝えろ!」
何かが落ちる音や倒れる音がスピーカーから聞こえてきた。壇上はどうなっているのか。
誰かの近づいてくる足音を拾った。そして、再びハウリングが起こると、
「私は皇帝の立場のまま、ルーア共和国への亡命を希望します!」
と赤髪の女の声が聞こえた。
でかした! ヤツは生きている!
しかし、何を言い出すんだ!? あの女は!
「連盟政府は帝政ルーアを傀儡政権とし乗っ取りを試みていました。あなた方の信じた軍事顧問と政治顧問は連盟政府の操り人形でした。今ここで成立した帝政ルーアは、やがて連盟政府の属国となっていたでしょう。それを私は帝政ルーアの復活とは認めない。
私を皇帝と認める帝政ルーアの兵士たちは、速やかに銃を置きユニオン軍および共和国軍に投降しなさい。ですが、もし、あなた方の周りにユニオンおよび共和国軍の兵士以外の兵士がいる場合は、速やかにそれの排除にあたりなさい! 責任は全て私、帝政ルーア皇帝、アニエス・フェルタロスが負います。共和国軍およびユニオン軍の方へ、投降し戦う意思のない帝政ルーア兵への人道的な扱いを所望します」
なるほど。さすが赤髪の女。ただの田舎娘じゃない。
アニエス陛下殿はご無事なようだ。ということはイズミもたぶん無事だろう。なかなかしぶとい野郎で怪我したくらいで死にはしない。
「狙撃部隊、および女中部隊。それからマルタンで作戦行動中の全部隊、よく聞けや。陛下殿のありがたいお言葉は聞いたな? 亡命政府軍はもう敵じゃない。無抵抗な者、投降してきた者は丁重に捕らえろ。撃ってくるヤツらには投降を促せ! それでも撃ってくるヤツは誇りだとかを握りつぶしてぶっ殺して構わない」
アイマム、と返ってきた。
まだやることはたくさんある。忙しくなる。
だが、執務室のドアが突然けり破られたのだ。




