ダムを巡る攻防戦 第十二話
「大丈夫ですか!」と声を掛けると、土煙が一斉に晴れていくつもの火炎弾が飛んでいった。イズミがやり返しているようだ。そして、アニエスさんは無事のようだ。
イズミの放った火炎弾の着弾位置を見ると、そこには連盟政府・商会連合軍の兵士が何十人も並んでおり、皆銃を構えていた。とにかく撃てという指示が出ているのか、それぞれが肩を揺らし、銃口から煙を上げている。それは止むことなくアニエスさんとイズミを狙っている。
どこから来たのか、先ほど私たちがはねのけた者たちよりも遙かに多くの兵士がそこにはいたのだ。
湖畔を回り込み、ダム修理を妨害しようと天端へ攻め込もうとしているようだ。
「どこからあんな兵士を!」
「連中、数だけは多いな。ハッカペルは分水嶺付近で戦っているようだ。劣勢ではないはずだがあちらも数が多いのだろう。おそらく敵の目的の一つであるダム破壊は必須なのだろう。精鋭をこちらに寄越したようだな」
「道は限られているはずです。どこから」
「いや、簡単だ。おそらく我が一族から殺し奪った移動魔法マジックアイテムを使っているのだろう。もはやなりふり構わぬと言うことか」
戦いに紛れていてふと何か忘れていることに気がついた。そういえば、レアの姿が見当たらない。
「レアは!? レアはどこに行ったのですか? ポータルを混線させていたはず」
「先ほどいなくなった。私も連絡が取れない」
「まさか逃げ……」
それ以上は言いたくなかった。よく見ればタムの上に開いてたポータルも閉じて無くなっていたのだ。
まさか、本当に。
だが、いないならいないで対応しなければいけない。ここで気持ちで負けてしまえば、指揮に影響して本当に敗北してしまう。
ユニオン軍の兵士も勢いに乗った連盟政府・商会の聯合軍に押されて、数を減らしている。
私はキューディラ越しに指示を出し一度残っていたユニオン兵士を集めた。そして、ダム修理の護衛に専念するように指示を出した。
湖畔で戦闘していた部隊が一部移動し、天端に回り込もうとしている聯合軍への攻撃を始めた。そちらの進行が僅かに遅くなった。
だが、そううまくはいかないものだった。
イズミとアニエスさんの共同作業で氷のダムを内側に造り出すことはすぐに終わった。
しかし、修理をしつつも攻撃をしていたイズミが血を吐き出してしまったのだ。彼のダメージも計り知れないようだ。
だが、まだ彼は動いている。魔法を絶えず唱えている。ゲホゲホと血混じりの咳を吐き出しながら、あれだけの血を流していながらもまだ、まだ眼光はギラギラと光り、杖を握る手は震えは起きていても流れ出る血に構うこと無く、全く諦めていないのだ。
私が諦めそうになってしまった。気合いを入れ直した。
しかし、そのときだ。ダムの横の原っぱに突然ポータルが開いた。
なんとそこから帝政ルーア亡命政府軍の兵士がなだれ込んできたのだ。
――もうだめかもしれない。




