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ダムを巡る攻防戦 第十一話

「なるほど、これは中空重力式か。これだけデカいのによく作れたな」


ダムの天端を走っているとポルッカが何かを言い出した。


「中空重力ということはこの中は空なのですか?」


「ユニオンには金属の強度を上げる技術があるからな。コンクリ内部の軸の強度は充分なんだろ」


「その方法を私が知っていれば完璧に直せるが、ユニオンの秘密技術なんだろ? 急を要するから、一度中空内部を排水して台形CSGで一旦直す。応急でしかない。事が落ち着いたらルカス大統領に修理どころか改良しろと言え。着いたぞ!」


天端の中心に四人揃って到着した。ダム湖の湖畔はどこからも煙や爆煙が上がっている様子が見通せる。こちらに向かってくる兵士も見渡せるが、無防備であることも同じだ。


「よくわからないが、とにかく応急だということはわかった。指示を出してくれ」


ポルッカが頷くと「アニエス中佐殿! 破断線を中心に半径三十二フィート、厚さ二十フィートの氷壁を湖底まで張ってください。湖底面に向かうほどに氷壁を厚くしてください。内側に小さな重力アーチダムを造る要領です!」と指示を出した。


アニエスさんは頷くと、ダム湖の湖面の方へ向き大きく魔方陣を煉り上げ始めた。ポルッカはそれを見届けると「ボンクラ、お前の仕事だ」とイズミに指示を出した。


アニエスさんの氷壁完成後、破断線からの漏水が止まり次第、中空内部に溜まった水の排水を行う。その後に中空内部にどこかから砂利だのを移動魔法で詰め込む。そのあとにダムの穴を塞ぐ。


「どこから砂利持ってくんだよ?」


「私が大統領に直接伺います。最近のユニオンは重厚長大傾向で採掘事業も盛んなので、採掘ズリが多く出ているはずです」


「何とかなるんだな? 俺は一旦アニエスを手伝う。凍らせる水量が半端じゃない。いくらアニエスでも時間がかかる。あっちが七割出来たらこっちを始める」


イズミはアニエスさんの方へと向かっていった。

私は何をすれば良い。何が出来る。ポルッカを背負ったまま、左右を見回した。


何も出来ない。ただ震える拳を握ってここで見ていることしか出来ない。

悔しさに下唇を噛むと、拳だけではなく全身も震えだしてしまった。


すると「姫騎士、魔法が使えないのが悔しいか?」と背中から声がした。


「ええ、まぁ。この状況ではもう魔法に頼むしかありません。エルフとの邂逅で科学や技術が急激に流入・発展して、私のような魔法の使えない者にも機会が与えられると思っていましたが」


「お前は素晴らしい人間だ。魔法が使えずに腐り、出世のためだけにとどまらず、ただ気に入らないという理由だけで周りを必要以上に蹴落とすような人間もいるというのに、気高く生きている。魔法が使えてもどうしようもない者よりも、お前の方がよほど偉大だ。この世界で何が一番の悪か。それを知っているか?」


「何でしょうね。悪は一概に悪と言えない場合もあります。明らかな悪というのは、殺人、不貞行為、欺瞞でしょうかね」


「どれも度し難い悪だな。万死に値する。だが、それ以上に悪いことがある。それは何もしないことだ」


「それは、まさに今の私ではないですか」


「そんなことはない。お前にはするべき事がある。剣はないが、己の心にある剣の柄を強く握れ。すぐに意味が分かる」


遠くの湖面で鳴り響き、僅かに聞こえていたはずの発砲音が近くで鳴り響いた。

するとアニエスさんの周りが弾けて土煙が上がったのだ。



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