ダムを巡る攻防戦 第十話
ダム近くの原っぱに出ると「皆さん! 遅いです!」とレアが駆け寄ってきた。
ダムには縦にひびが入り、今にも決壊してしまいそうだ。
「出ている水を凍らせてとにかく流出を止めます!」とアニエスさんが駆け出そうとした。
「待て、いや、待ってください」とポルッカが止めた。だいぶ意識をはっきりと取り戻しているようだ。言葉も先ほどのようにかすれてはいるが、語尾がハキハキとしている。
「水は凍れば膨張します。穴の内側を凍らせればその分膨張してダムを圧迫してひびを走らせる。かえって決壊を早めてしまいます」
ポルッカはイズミや私に対する様な物言いではなく、丁寧にアニエスさんに言った。北公の立場ではアニエスさんの方が上司なのだ。それは、まだ、そうなのだ。
「ではどうすればいいのですか?」
アニエスさんがポルッカに尋ねると、ポルッカは考え込むようになり視線を左右に動かした後、「おい、ボンクラ」とイズミに呼びかけたので、私は背中をイズミの方へと向けた。
「お前は錬金術が使えるな? 私の指示に従え」
イズミはムッとした態度を見せたが、ポルッカの簡単な説明を聞いていた。
まず、穴が開いたところを中心に半円筒状にダム湖の水を皆底まで凍らせる。その氷のダムの内側にある分の水を流しきり、空洞にする。
だが、その氷の支える水の重さは多いので遅かれ速かれ決壊は免れない。その氷のダムが壊れるよりも先に、ダムに出来た亀裂を修理する。
「だが、このダム湖は深い。一人で全ての工程をやるのは不可能だ」
「アニエス中佐殿」とイズミのときとは違って丁寧に名前を呼んだ。今度はアニエスさんの方へと背中を向けた。
「もう、中佐ではないですね。あなたは湖の水を凍らせてください。穴の中の水を凍らせずに、ダム湖の水だけを凍らせて氷のダムを内側に造る要領です。お願いします」
アニエスさんはそれに頷くと杖を握り直した。ポルッカはイズミの方へ首を向けた。
「ボンクラ、お前は私と共にダムの修理を行う。使い物にならない私の代わりをやれ」
「わかった。カミュ、背負ったまま付いてきてくれ」
イズミとアニエスさんと共にダムの上の通路へ向かって駆け出した。




