ダムを巡る攻防戦 第八話
アニエスさんがイズミに目を合わせると二人同時に頷いた。
イズミはポルッカのズボンを裾側から丁寧に切っていった。すると脹ら脛が露わになった。
しかし、目を覆いたくなるほどに脹ら脛は抉れてしまっている。腫脹も激しく、もはやそうだとも思えないような状態だ。
脚はここまで抉れてしまっては厳しいかもしれない。残せたとしても機能を完全に回復できるかは怪しい。
イズミは太ももの付け根の結紮を強めると、傷口をデブリドマンして治癒魔法をかけ始めた。
若さがあるので治癒が速い。だが、それ故に創傷治癒の際に皮膚や筋肉に縮むような痛みが走るようで顔を歪めている。だが、ポルッカは表情を出せるほどに戻ってきているのだ。
イズミは治療の間、「頑張れよ! もう少しだ!」と白い息を上げながら声をかけ続けていた。
その後に腕も同じように治癒魔法を掛けると出血は治まったのだ。
そこへレアからキューディラに連絡が入った。
「イズミさん、アニエスさん! まだですか!? どこで何やってるんですか!? そろそろ限界です! 大きな音がしてます!」
キューディラ越しに何か大きなものにひびが入るような雷よりも重たい音が聞こえてきた。
「待ってくれ! もう少しだ! カミュ、ポルッカを背負ってくれ! 一段落付いたからダムまで走るぞ。レア、カミュとポルッカと合流した! すぐに向かう!」
イズミが治療を終えて立ち上がろうとした。しかし、そのとき強烈な立ちくらみの起こしていた。
よく見ればイズミの来ている軍服も血塗れだ。外から浴びて付いたような血ではなく、内側から湧き上がってきたように生地にじんわりと染みこんでいる。
これほどの出血をしてよくここまで来られたものだ。
そして、彼の負傷も軽傷ではないのだ。興奮状態で忘れていたようで、魔法を使うことで体力を消耗し、痛みが再び湧き上がってきたのだろう。
「イズミ、大丈夫ですか?」
私が声を掛けると「大丈夫だ」と足を踏みしめて立ち上がった。ここで倒れるわけにはいかないようだ。
顔を両手で叩き、気合いを入れ直した。
「ダムまで走るぞ!」
アニエスさんとイズミは杖を前に掲げ、爆発音と怒号が飛び交う森の中へと駆け出した。




