ダムを巡る攻防戦 第五話
「あああああああ!」と久しぶりに聞くような声が聞こえてきた。
その落ちてきた二人は「邪魔、邪魔、じゃ」と言いかけた途中で地面に激突し、凄まじい地鳴りを起こして土埃を上げたのだ。
まさか墜落死してはいないだろうか。そう思ったが、土埃が止む前に咳き込む音が二つ聞こえ始めた。そして、煙に立ち上がる人間の影を映し出した。
「何なんですか! 本当に! あなたは!?」
「仕方ないだろ! まだパラシュートなんかないんだから! それに無事なんだろ!?」
「いい加減にしてください! さっきから! 無理矢理椅子に縛り付けたかと思うといきなり空なんかに飛ばして!」
「逃げる為なんだからしゃーねーだろ!」
「ここどこですか! ダムからあんなに離れて!」
聞き慣れた男女の声が言い争いをしている。その声は間違いなく私の心を躍らせた。
イズミとアニエスさんが落ちてきたのだ!
土埃が晴れると様子が明らかになった。半径五ヤードでそれなりに深さのあるクレーターの真ん中で、アニエスさんは怒り肩でダムの方を指さしている。イズミの方は何やら血塗れだ。
とにかくこの二人に助けを求めよう。おそらく私たちの味方のハズだ。
しかし、「イズっ……」と呼びかけて駆け寄ろうとしたそのときだ。
「なんだ、お前ら! 敵か!? 敵なんだな!?」とざわつき始めた連盟政府・商会の連合軍の兵士が二人に向かって銃や杖を構え始めた。中隊規模の半数以上が異常に気づいて集まり始めた。敵の数が多すぎる。このままでは二人も危ない!
「うっせー!」「うるっさい!」
二人のシンクロした怒鳴り声と同時に、アニエスさんからは冷たく空気の凍るような突風とイズミの方からは爆発とそれに伴う爆風がはじけ飛んだ。
「「今大事な話して」」「るんだよ!」「るんです!」
二人の強烈な魔法でそこにいた中隊の半分以上が吹き飛んでいったのだ。
「おい、おいおい、アニエス! 今ので誰か死んだらどうするんだよ!? 君はイライラしてるときが一番危ないんだぞ!」
「死ぬわけないでしょ!? この人たちみんな、兵隊なんだから! そんくらいの訓練してるんでしょ! あなただって思い切りやったじゃないの!」
「俺は手加減した! ……と思う。でも、でもなぁ! 素人かもしれないぞ! クロエが一般からも兵士を徴用してるとか言ってたからな!」
「また! またあの眼鏡女ですか!? 眼鏡掛けてる女なら誰でも良いんですか!?」
「ンなワケあるかボケェ!」
「ボッ!? ボケとは何よ!? 周りに女ばっかり集めて! 色ボケしてんのはあんたでしょう!?」
とにかく助かった。だが、この二人が何故ここに? いやそれよりも、喧嘩をしないで欲しい。
草むらから這い出して「あ、あの」と私が声を掛けると二人は素早くこちらに向けて睨みつけると同時に杖先を向けてきた。二人ともだいぶ雰囲気が変わってしまったようだ。私は手を上げたまま、蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。
しかし、私が誰であるか気がつくとすぐに表情を和らげて杖を下ろしてくれた。




