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血潮伝う金床の星 第二十五話

 ワタベが来てから様子がおかしい。


 と発生した不都合を、いけ好かない彼のせいにしてしまうのは筋違いも甚だしいとは思うのだが、役員女神から貰った古いキューディラの調子がおかしいのはワタベが来た日からなのだ。


 それを介して行われる会話は全て傍受されているので使用は禁止されていて、ほとんどの時間を共和国内で過ごす俺には使う機会が全くない。それゆえ触りもしていないのにもかかわらず、使用時に起きる発光を不規則に放ちながらノイズが入ることが多くなった。

 最初はただのノイズだけだった。何日かすると複数の男性同士が短い言葉で会話をしているような音が聞こえ始めた。だが、音は完全に割れてしまっていてどのようなことを話しているかはわからない。それからも日が進むにつれてその不具合は回数を増していった。

 しかし、不具合自体はグラントルアに近づくと発生し、屋敷に戻ればいつのまにか収まるので、回数が増えれば増えるほど慣れはじめてしまい、いつか収まるだろうと特に気にもしなくなった。



 木々もだいぶ葉を落とし、朝晩はすっかり寒くなったので、朝は低血圧のマリークを車で学校まで送るようにして、帰りの迎えは徒歩で行うことになっていた。こっそり車送迎をしているのがユリナにバレ、その件で呼びだされ、行きも帰りも車とか甘やかすな!と言われたので、そういう取り決めになったのだ。

 そのとき、マリークは甘えてきて、イズミィと言いながらのうるんだ瞳の上目遣いをしてきた。それに俺は負けそうになったが、心を半分鬼にして、残りの半分でユリナの譲歩を引き出した。


 年末が近づくと工事が多くなるのはどこも同じようで朝も早いのに通行止めが多くなり、いつものルートを外れた狭い道や人気のない道を車で通ることになった。その日のキューディラの不具合は特にひどく、ずっとノイズが入っていた。運転中もずっとサーと砂嵐の様な音を立て続け、なぜか屋敷に戻ってからも収まることはなかった。

 いつもとは違うので気にはなったが、構造もよくわからないので下手に触ると壊しかねない。マリークを送り届けて屋敷に戻った後、レアに尋ねたが彼女も直し方がわからないのでそのままにしていた。

軍部省に顔を出してユリナの仕事を手伝い、その後シロークに会うため金融省に出向いた。そうしているうちにあっという間に時間が過ぎ、マリークのお迎えの時間になったので、彼を学校まで徒歩で迎えに行った。


 学校の門の外で待っていると、マリークは上着を着て鞄を背負っていた。どうやらオリヴェルと遊ばなかったようで、すぐに帰ろうと言ってきた。オリヴェルは風邪を引いたようで元気がないらしい。そのかわり、家に戻ったらイズミとカミュと遊ぶと言っていつも通り張り切っていた。

 早く帰るときはだいたい杖は彼が独占することになる。マリークには魔法の才能があることを俺は伝えていて、そしてこっそり魔法も教えていた。彼の魔術系統は氷雪系であることははっきりしていた。悲しいことに生みの母の命を奪った冬の属性だ。杖を持たせてギンスブルグ家の敷地内の訓練場で練習させていた。諦めないうえに、魔法の練習が面白くて仕方がない彼はへとへとになるまでやり続けるのだ。


 そのおかげで、最近は大きめの氷の塊を出せるようになってはきたが、まだ実戦には早い。できるものなら実戦など永久に来ないことを願いたいところだが。


 午前中からの通行止めは午後になっても相変わらず続いていた。いつもと違う道で帰るマリークは、見たことのないものに興味を示して興奮気味になっている。

 しばらくすると彼の身長より少し低いくらいの石壁の上を歩きはじめたので、落ちないようにと手をつないでいた。そのとき、上着のポケットの中でキューディラがまたノイズを出し始めたのだ。


 確認ついでにちらりとみると不規則に光っていただけなので、またか、と気にすることもなくポケットにしまった。分厚い上着の下からくぐもった声で話す声が聞こえた。


「……待……。対………………通り方面へ移動」


 しかし、その時はいつもと異なり、単語が聞き取れるほどはっきりと聞こえた。まるで誰かを尾行して監視し、他の誰かに連絡を送っている内容のようだ。ほんの一瞬、胸騒ぎがした。


 この間、メレデント政省長官が去り際に言った「ヘリツェン・マゼルソンにはくれぐれも気を付けたまえ」という言葉が頭の中をよぎり、そして、まず狙われるのはマリークだというククーシュカのアドバイスを思い出してしまった。


「了……。定……次……待機……る」


 割れてはいるが、今度は別の男性が話している声でそれに応答しているようだ。


 まるで狭い道や人気のない道を通るように誘導されているのではないだろうか。そんな考えが浮かぶと脇から汗が噴き出るのを感じた。


 まさかとは思い、つないでいたマリークの手を強く握った。人の気配が多い大通りに出なければと気持ちが逸り、早歩きになってしまった。強くひかれたマリークが壁の上でバランスを崩した。


「発砲……許……。各……を……せよ」


発砲……まさか!


「マリーク! 伏せろ!」


読んでいただきありがとうございました。感想・コメント・誤字脱字の指摘、お待ちしております。

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