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ダムを巡る攻防戦 第二話

上官殿が倒されて残りの四人には動揺が走った。

だが、こちらは一人。多勢に無勢だと勘違いしてすぐに表情を緩め、他の二人が襲いかかってきた。そのうち一人の首を絞め、構えていた銃を至近距離でもう一人の腹に撃たせた。銃口から拳一つ分も離れていなければ、どれほど粗悪な銃でも外すこともあるまい。

絞めていた首を背中と顔が一直線になるほどに曲げて、身体ごと脇へと投げ捨てた。横に倒れた兵士はうつ伏せなのに上を向いている。その手から銃がポトリと落ちた。

さらに襲いかかってきたもう一人には、足で蹴り拾い上げた銃の台尻で額を殴りつけた。粗悪だが硬い銃のようだ。卵の殻が割れるような感覚が手に伝わって来た。血を噴き出してうつ伏せに倒れてきた兵士を蹴り飛ばすと、残った反射だけでふらふらと森の中へ迷い込み、茂みに足を取られて草むらの中へ倒れた。

残った者は後退ると銃を捨て尻餅をついていた。背後の木に身体を預けるようになり両手を挙げていた。軍服のズボンの股間を濡らして情けない。


なるほど、こいつは自分はやらなければ殺されると思った者だろう。


だが、私は見ていた。こいつが先ほど無抵抗なポルッカを撃っている者たちを止めようとはしなかったことを。


涙目になり何かを言っていたが、耳には届かなかった。浴びた砲火の爆音で遠くなっていたのか、それとも聞く気が無かったのか。

大体おそらく、自分はやりたくなかったとでも言っていたのだろう。

しかし、この目で見たものは疑いようが無い。無抵抗な者を甚振ってくれたものだ。もはや覚悟の有無では無い。


先ほど拾い上げた銃には弾が込められているようだ。撃つ前に私に倒されたうつ伏せで空を見上げている者の銃だ。

使い方は共和国やユニオンのものとだいたい同じだろう。

ゆっくりと近づき、前屈みになってその兵士の口の中に銃口を押しつけた。震える前歯に当たるとかちかち音を立てた。生存本能で食いしばられてしまい、こちらも銃を引くに引けない。引くつもりなど毛頭無い。

やがて舌の上に乗ったのか軟らかい感触が伝わってきた。

そこで「パン」と唇を弾くように音を立てて引き金を握った。しかし、ぶちまけた血に泥が混じり、そして固まり始めていたそれで銃身が詰まっていたようだ。弾は飛び出さなかった。火薬も血で湿ったのだろう。殺された仲間に感謝するべきである。

その兵士は命拾いしたようだが、白目を剥いて気を失った。

草の上にドサリと倒れると辺りは静まりかえった。遠くで爆音が聞こえる。金具を揺らすような足音もしない。おそらく増援は来ないだろう。


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