表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1605/1860

マルタン芸術広場事件 第六十四話

操縦席から離れてアニエスのシートに近づき、石になり瞬きさえ忘れているアニエスの両頬を包み込むように叩いた。

二回ほど叩くと意識が戻ったのか、突然「うわー! うわー!」と悲鳴を上げた。


「しっかりしろ。これからもう一仕事だよ。陛下殿!」


左右を見たあとに、うんうんと小刻みに頷いた。

「これから飛び降りてダムを直す」と言うと目を丸くしたが、無茶振りにも慣れてきたようだ。目をつぶって嫌そうな顔で首を背けたが、シートベルトを外して立ち上がった。

アニエスが準備をしているので、俺は一足先に後部ハッチへと向かった。


「ティルナ、ウリヤとヘマのオバハンを頼んだぞ! アニエス、行くぞ!」


アニエスの手を引いて後部へ向かい、ハッチ開閉のレバーを引いた。

ピーブ音がなり黄色い警告灯が回転しはじめると同時に、夏の風とは思えないような冷たい空気が流れ込み、身体を包み込んだ。

大きく開くにつれて風の音が強くなり、回り込んだ風が早く飛び出ろと言わんばかりに背中を押してきた。

青々とした森が広がるマルタン丘陵が雲よりも遙か下に霞んで見えている。その中にひときわ大きな灰色の壁が見えた。上部にひびが入り、そこから漏れ始めた水がコンクリートの色を濃い灰色に変えている。

森の中、斜面のあちこちで煙や爆発が起きているのも見える。連盟政府・商会の連合軍とユニオン軍が戦っているのだろう。

山の下には、さらに亡命政府軍が屯しているが戦闘の気配はない。彼らは指揮権が不明瞭になり混乱しているのだろう。


「アニエス、降りたら君は亡命政府軍に指示を出してくれ! 俺はダムを直しにいく!」


分かりました、とやや引きつった声で返事が聞こえたので物理強化魔法を強めに身体全体にかけてタラップを降りていこうとしたら「ちょーっ、ちょちょちょ! ちょまぁっ!?」とコックピットから焦った大声が聞こえてきた。


「誰が動力の魔力を供給するんですか!?」


ティルナが前を向いたままコックピットで慌てながらそう尋ねてきた。

確かに、この飛行機を飛ばすためには魔力のみに依存している。魔力供給者が降りてしまえば、燃料なしで滑空だけで飛ぶグライダー状態になる。ここからラド・デル・マル空軍基地まではそう遠くないが、燃料無しでの到達は不可能だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ