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マルタン芸術広場事件 第六十三話

と、あの赤いブタのように余韻に浸っている時間も無かったのだ。


敵機も引き離し、高高度で速度も安定し始めたとき、ティルナのキューディラが鳴った。

ティルナはこれまでに味わったことのない速度と操縦方法に緊張しており、操縦桿から手を放せない様子だった。彼女のキューディラを俺のものへと回して、代わりに連絡を拾った。


「ティルナさん! ダムが大変なことになっています! 必要人員救出行動のために戻れますか!?」


こちらが名乗るよりも先に、キューディラから大声と爆発音が聞こえてきた。

背後の音に負けないようにと大声を上げているようだ。その聞き覚えのある声はレアの声だった。


「レアか? なんで君がここにいるんだ?」


応答したのがティルナではなく、男の声に驚いたのか沈黙したがすぐに低い声で


「……その声、借金踏み倒しの裏切りイズミクソ野郎さんですか? その声の様子では、そちらはうまくいったようですね。アニエスさんはお元気ですね?」


と応えてきた。

アニエスの方を見ると、飛行機の離陸の衝撃やら攻撃の振動やら、それからの急加速という人生初尽くめの負荷で硬直している。おそらく話しかけても、あ、あ、としか言わないだろう。

かたやウリヤは気持ちの悪そうな顔をしているだけで平気そうだった。まだ緊張していて気が張っているだけなのかもしれない。

ヘマは白目を剥いて力なく首をもたげ、口からよだれを垂らしてシートに脱力している。空の旅が快適すぎるのか失神しているようだ。いや、もう若くないし、死んでないよな?


「随分口が悪くなったな。ユリナのが移ったか? アニエスを含めて人質もみんな元気だ。アニエスは生まれて初めて空に問答無用で飛ばされて石になってるがな」


「丁度良いです! イズミさん、アニエスさんとこちらに来てください。今すぐです!」


「説明してくれ。これから飛行機でそっちの上まで移動する。その間にしてくれ」


「一刻の猶予もありません! 移動魔法で来てください!」


「無理だ。アニエスも俺もマルタン丘陵に行ったことが無いから移動魔法は使えない。それにレアもこっちには開けないだろ? 高速で移動中で絶えず場所が更新されてるからな。たぶん、場所に固定されたポータルが機体を巻き込んで穴を開ける」


舌打ちの音を思い切り拾ったあとにキューディラからレアの声が続いた。


「ダムにひびが入りました。決壊すればマルタンが水浸しになります。それだけで済めばいいのですが、そのダムはユニオンの水甕です。決壊すればユニオン全体が水不足になります。現状でそれは非常に危険な状態です。それ以上の説明は現地が何とかなってから致します」


「どういういきさつか知らないけど、ティルナを助けに呼ぶって事はレアはユニオンについたんだろ? ダムを守るのが君らの仕事じゃなかったのか?」


「お黙んなさい。とにかくさっさと来てください! ユニオンが負けてあなたの理想がますます遠のきますよ!」


「とにかく緊急事態なんだな。わかった。おし、ティルナ、戻ってくれ。マルタン丘陵の上まで行って適当な高さにまで下げてくれ! 後部ハッチから飛び降りる!」


「簡単に言いますね! どうやって降りるんですか? 飛び降りるんですか? 地面はあなたが思っている以上に固いですよ!?」


「さっきの感じだとパラシュートなんかまだ開発されて無いよなぁ。俺とアニエスは魔法で飛べる」


「飛んだことあるんですか?」


「ない」と言いながらシートベルトを外して立ち上がった。


「何とかなんだろ! 俺がいたトコでは、魔法って言葉は便利で素敵で都合が良いモノを言うときに使うんだからな!」

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