マルタン芸術広場事件 第六十話
「何れにせよ全開じゃないと出られないわ。格納庫のドアをどう突破するつもり?」
「バスコさん、何か武装は?」
「簡単なのがあるなァ。強化炎熱系自動追尾魔法弾砲一門と魔法機関銃二門が……」
「あるんだな? よし、ティルナ、機体を格納庫のドアに向けて、レバーのトリガーを引いて魔法機関銃をぶっ放せ。ある程度脆くなったら、レバーについたカバーの下にある赤いボタンを押してミサイルを思いっきりぶっ放せ!」
ティルナは鼻先を閉まり掛けたドアの方へ向けた。そして、前進を止めることなく機関銃をぶちまけてドアを蜂の巣にした。脆くなったドアは炎上して崩れ始めた。あとは機体で押せば脱出できそうなほどだが、ティルナは容赦なくそこへミサイルをぶっ放した。
ドアにミサイルが当たると目の前が眩むほどの閃光が走った。すぐに目が慣れると、外の明かりが白く見えていた。
前進する速度を上げて格納庫を脱出することが出来た。
ふと、窓から外を見ると、敬礼をする亡命政府軍の若い兵士たちの姿が見えた。煤にまみれた顔に精一杯の笑顔を浮かべて、こちらに敬礼をしている。後方で起きた爆発の煙の中にそれは消えていった。
後ろを見ない。俺はそう決めていた。だが、爪が食い込むほど拳を握り太ももを二、三度殴りつけた。奥歯が割れそうなほどに歯を食いしばり、俺は前を向いた。
炎上して崩れて行く格納庫をあとにし、目の前の滑走路へと入り機体は一度止まった。
「この機体は大きいが短距離で離陸できるようになっている。離陸体制に入ると後方に錬金術を応用した系を地面に設定した物理防御壁が出来てエンジンからの勢いをそのまま前進する力にして、さらに機体正中線直下の地面に雷鳴系を基礎にしたカタパルトを敷いて……」
「そらぁすごい! エンジン点火ぁ! 全力前進テイク・オフ!」
「君たちィ……、最後まで説明を聞いてくれるかなァァ? それは私の自信作なのだァ。丁寧に扱ってくれないとォなァ」
「そうか! バスコのおっさんの自信作なら、ちっとやそっとで壊れるわきゃない! マッハの彼方へぶっ飛ばせ! 墜ちても俺とアニエスが何とかするから気にすんな!」
突然言葉が置き去りにされたかのように音が遠くなり、シートに頭を押しつけられた。まるで壁そのものが身体全体を、細胞の一つ一つに至るまで押さえ付けているかのような感覚に襲われた。息をすることもできない。
ティルナは問答無用で離陸を始めたようだ。目を動かすことすら出来ないので確かめようもないが、コックピット窓から見えていた滑走路はすぐに消えて空だけが見えるようになった。




