マルタン芸術広場事件 第五十三話
そして、ついに市庁舎から地下に掘られていた通路を抜けて格納庫につながるドアに到着した。
後方には中央突破をした俺たちを追いかけてきたヴァンダーフェルケの連中がまだ攻撃を止めずにいる。そこへ追いついてきたのは第一航空連隊のようだ。二つがぶつかり混戦状態になっている。おかげでこちらへの視線が僅かにではあるが逸れてくれた。
ティルナが地下からのドアをわずかに開けて確認すると、ドアを大きく開けた。
「ここに敵はいない様子です! 早く乗り込みましょう! 全魔導複座式特殊空挺があるはずです!」
格納庫の奥の方に大きな影があった。暗がりの中でも分かるほど大きな筒状の何かの両サイドには羽とおぼしきものが付いているのが見えた。
ティルナはそれに気がつくとそちらへ向かって駆けていった。だが、その機影の前で立ち止まっていた。
駆け寄るとティルナは絶望したように飛行機を見ていた。
「そんな……。嘘でしょう。これじゃあ飛べない。プロペラが、プロペラが無い!」
改めて飛行機を見ると確かにプロペラはついていない。ユニオンの航空機は星形の気筒がついていたはずだった。それは見当たらず、先端はやたら尖り、さらにそのさきにアンテナのような棒が付いているだけだった。
「外されてしまったのね。分解されて解析されたのね。ヴァジスラフ!」
ティルナは怒鳴り声を上げてヴァジスラフを呼びつけた。
「あなた! なんでこんなことしたの!?」
問い詰められたヴァジスラフは困ったような顔になった。
「私はこれには触るなと言った。航空機のコピーも私の知っている知識から作ったものだ。私自身も触っていない! 私にこれのことについて問われても困る!」
「そんな無責任が許されるわけ無いでしょう! どうしてもっと守るとかしなかったの!?」
二人に遅れながら俺もその航空機に近づいた。二人とは違い、俺はこれに見慣れていた。よく知っているものとは違うものの、これは完全な形であるとすぐに分かった。
「ティルナ」と俺は飛行機を見ながら彼女を呼んだ。だが、彼女は喧嘩で頭に血が上ってしまってまだヴァジスラフを責めている。
「おい、ティルナ! 聞け!」といきり立つ彼女に、彼女の勢いを上回る声を上げて怒鳴り散らした。すると、ティルナは俺を二度見して睨みつけてきた。
「何ですか!? 黙ってください! 何とか逃げる方法を考えてるんですから!」
「聞け! これは飛ぶぞ。飛ばせるぞ!」




