マルタン芸術広場事件 第四十七話
「アニエスとティルナはウリヤちゃんとヘマさんを守ってくれ! だが、アニエス、君はルーア皇帝だ。杖は抜いても絶対に攻撃をするな! アニバル、お前銃は使えるか?」
「それなりにですが」
「よしわかった。じゃ今から俺が亡命政府軍から何丁か奪うから、それ使って威嚇しろ! 殺すなよ!? 威嚇で良いからな! 俺たちはこれから逃げるだけだからな!」
杖を振り上げてサボり君を中心にその辺りにいた航空連隊の兵士を吹き飛ばした。
サボり君はなぜ航空連隊でもないのに彼らと行動を共にしているのだ。よくいるどこにでも顔が利くみたいなヤツか。
またあれか。クラスに一人はよくいる『オタクだけどちょっと悪いヤツらと仲が良い』みたいな奴か。だいたい利用されているだけって気がついてない、哀れなタイプだ。
また何か余計なことをしでかさないようにしっかり失神させておかなければ。
彼らの手から落ちた銃を何丁か拾い集めてアニバルにまとめて渡した。
しかし、かき集めた銃は妙な形だ。発砲音は雷管式で間違いない。だが、共和国製チャリントン三年式二十二口径拳銃ともアスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃とも違う。発砲音というのか、火薬の炸裂音の直後に、黒板をひっかくような不快な音が混じるのだ。
見た目はアスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃と何一つ変わらない。だが、薬室の外側部分には、植物をモチーフの――細い枝に厚みのある葉が付いている、オリーブか何かのゴテゴテとした装飾が施されていた。指でなぞり台尻の方へ目をやると、その先では鳩が枝を咥えているレリーフが施されている。
そして、こうして改めて手に取ってみると重さも違う。セシリアの持っていたアスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃よりもずしりと手に沈み込むようなほどに重い。共和国の小銃もここまで重くないはずだ。
ライフリングは……、覗くのはバカのすることだから見ないが。
クロエも何か知っていそうな顔をしてこれを見ていた。何か知っているのだろう。
「イズミさん、早く動いてください! 時間はありませんよ!」
アニバルが急かしてきた。吟味などしている時間は無さそうだ。そして、悠長に盗み出している余裕も無い。
俺を急かして行かせた後、アニバルが早速一発撃っていた。
だが、発砲と同時にアニバルは「うわわ」と声を上げた。
「何だこの銃は!? 狙いがまるでデタラメじゃないか! イズミさん、申し訳ない! これは使い物にならない! 危なすぎる!」
「当てなくていいっつったろ! 狙いが悪いなら狙って外せ!」
「むちゃくちゃを! 跳弾とかで当たっても責任取りませんよ!」
「こっちにゃ皇帝がいるんだ! 誰も撃ってこられやしない。撃ってきてるのも警告……」
目の前の地面が一斉にはじけ飛んだ。俺は咄嗟に魔法を唱え地面を持ち上げて壁を作り上げた。
「おい、マジかよ! 自分らの主君殺す気かよ!」
それ以降はアニバルは何も言わずに撃ち続けてくれた。
背後への攻撃を続け、遅れさせながら廊下をさらに進んだ。




