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マルタン芸術広場事件 第四十五話

「なぜ? 皇帝を危険な目に遭わせるのはあなた方帝政思想(ルアニサム)にとって不敬なことではないの?」


「帝政ルーアには、有事の際に皇帝がお逃げになる場合の古来より伝わるルールがある。その場に必ず戻るという意思を示す為に自らの御御足で抜けだし、生きて逃げているという証拠を残さなければいけない。そして、市民の前に現れて自らが皇帝であると示さなければいけない。

移動魔法は一見万能だが、皇帝が明らかに逃げ果せたという確証を関係した者たちだけに与えられない。そのリスクが分からないか?」


「面倒くさい一族ね。今は一刻を争うのよ? そんな悠長なことを言っていていいのかしら?」


「時空系魔法は奇跡の中の奇跡。生命に与えられた時間という平等を崩すもの。それを臣民の面前で公然と使うのは神秘性の低下を招く。故に市民の前では使うことは催事式典を除けばほぼ無い。見ることができるなど、臣民からすれば幸運中の幸運のさらに希な幸運だ。アカアカカルデラの燃えたぎる火口に放り込まれて無傷で生きてかえるよりも運が良いことだ。それにかこつけて、皇帝になりすまそうと言う輩も少なくない。逃げるときのルールは、ただ時代遅れの精神論や儀式伝統的なだけではなく、理にもかなっている。陛下が自らを皇帝と名乗られた今、国土は無くとも陛下は小さな帝政ルーア。そして、私は権力に目が眩んだ顧問官どもとは違うたった一人の心からの臣民。帝国は皇帝と臣民のもの。臣民が一人でもいればそれは既に帝国。皇帝陛下自身で亡命を宣言し偽りの王国を正しく捨てる為にも、従っていただこうか。なに、問題は無い。皇帝はいつ如何なる時にも精鋭に囲まれている。今もこのように」


と言うと、俺、ヘマ、ウリヤ、アニバル、兵士の二人、そして、ティルナを見回した。


「あなた達は心強い。帝政思想(ルアニサム)という信仰心を持つ私がかすむほどの強い絆を皇帝と結んでいる。私は誰よりも敬虔であると自負があるが、それを上回るほどだ。敬虔であることと親しい間柄であることは似て非なるもの。だが、今はそれがどれほど頼もしいか」


「仕方ないわね。じゃあなたはどうするつもりだったの? まさか、無計画なわけではないでしょうね」


ティルナはヴァジスラフを睨みつけた。


「脱出には飛行機を使おうと考えている。私も一応は操縦が出来るのでな。飛行機離陸後、安全が確保されて安定状態に入り次第キューディラで生存の宣言をし、そして、正式な宣言の放送を行う予定だった」


「随分具体的に考えてるわね。まるで最初からそのつもりだったみたいじゃない」


ティルナはちらりとアニエスの方を見た。

当のアニエスは黙っている。だが、何も知らないという顔ではなく、意味深な無表情をしている。そして、我関せずと言う素知らぬ顔でも無い。どこからかいつからかヴァジスラフの企みの当事者である自覚を持っている様だった。

それは皇帝であるからヴァジスラフを始めとした敬虔な帝政思想(ルアニサム)の行いの全ての責任を持つのは当たり前であるという意味での沈黙なのか、それともヴァジスラフのしようとしていたことを全て知っているからこその沈黙なのかまでは分からなかった。


ティルナは黙ったままアニエスをしばらく見つめていた。だが、気を取り直すように鼻から息を吸い込んで再びヴァジスラフの方を見ると「あなた、ダラダラ調査してた挙げ句に、ほっぽり出して長いことマルタンにいたんだから詳しいわね? 早く格納庫へ案内しなさい。最短で一番安全なルートで」と顎を動かして指図した。


「矛盾しているな。私を困らせるつもりだろうが最短で一番安全なルートは、確かにある。市庁舎の地下にある格納庫までの隠し通路だ。まずはそこへ向かおう」



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