表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1578/1860

マルタン芸術広場事件 第三十七話

それは無責任ではないだろうか。しかし、アニエスは止まることはなく、さらに続けた。


「連盟政府は帝政ルーアを傀儡政権とし乗っ取りを試みていました。あなた方の信じた軍事顧問と政治顧問は連盟政府の操り人形でした。エルフの代表者であったフィツェク法律顧問とアブソロン金融顧問は既にルクヴルール軍事顧問により殺害されました。このままでは、今ここで成立した帝政ルーアは、やがて連盟政府の属国となっていたでしょう。それを皇帝である私は帝政ルーアの復活とは認めない。


マルタンのアルバトロス・オセアノユニオンの領土への返還を宣言します。

私を皇帝と認める帝政ルーアの兵士たちは、速やかに銃を置きユニオン軍および共和国軍に投降しなさい。ですが、もし、あなた方の周りにユニオンおよび共和国軍の兵士以外の兵士がいる場合は、速やかにそれの排除・拘束にあたりなさい! 責任は全て私、帝政ルーア皇帝、アニエス・フェルタロスが負います。共和国軍およびユニオン軍の方へ、投降し戦う意思のない帝政ルーア兵への人道的な扱いを所望します」


言い切ると彼女はマイクを放り投げた。床に落ちる音とハウリングの強烈な音が鳴り響いた。


「ここは危険だ。一旦逃げるぞ! 陛下殿!」とアニエスに笑いかけると大きく頷いた。


俺は両手を突いて立ち上がろうとした。しかし、腰が崩れてしまった。右腰の辺りに何か熱い感覚が在ることに気がついた。手で押さえ、掌を見ると真っ赤に染まっていた。


――これは、誰の血だ。


アニエスは無事だ。考えなくても分かっていた。俺の血だ。

先ほどの狙撃弾が俺の腰を貫いていったのだ。腰の辺りが真っ赤にじわじわと染まり始めていた。

自らの出血に気がついた瞬間、全身の力が抜けてうつ伏せに倒れてしまいそうになった。

このままではマズい。失血死する。死ななくても、意識を失っては逃げられない。

何を思ったのか、俺は咄嗟に炎熱系の魔法を唱え、そして杖を銃創に突っ込んだ。


これまではアドレナリンに痛みが押さえ込まれていた。しかし、いくら興奮状態だからと言ってこれには激痛が走った。切り傷のような割くような痛み、熱い物を触れたときに遅れてくる小さな棘を皮膚深くまで刺すような痛み、ずんずんと響くような内臓痛。

全てが腰に集まり、意識を失うことさえも許されないような激痛だ。

だが、三秒ほどそれを堪えると血管は焦げて塞がったようだ。流れ出るときに感じる寒さは収まった。すぐさま杖を引き抜き、再度出血が起きるまでに治癒魔法を唱えると、銃創は上皮に覆われた。

だが、ここで安堵してはいけない。立ち上がらなければいけないのだ。

立ち上がり、アニエスを助けなければいけないのだ。


そのとき、俺はこれまでアニエスしか見ていなかったことに気がついた。


バルコニーの隅で金髪緑眼の女の子、おそらくウリヤ・メレデントがこめかみに銃を突きつけられていたのだ。

あの子が助けられない。身体が動かない。右手に力を込めたが杖が持ち上がらない。

さらに反対側、化粧の濃い女性が杖を持ち上げてこちらに向けている。亡命政府の幹部だろう。エルフの国なのに人間が、しかも魔法が使える者がいるのか。

間に合わない。俺は馬鹿だった。急ぎすぎてアニエスしか見ていなかったのだ。

銃を突きつけていた男が身体を動かすと銃声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ