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マルタン芸術広場事件 第三十二話

「ネルアニサムを掲げるマゼルソン法律省長官の指示でマルタンに入っていました。

 表向きは難民エルフのテロリストとして活動していました。

 亡命政府が皇帝を主張するのは時間の問題だということで、万が一にも偽の皇帝が擁立された場合は暗殺せよと指示を受けていました。

 しかし、アニエスさんという、フェルタロス家の者が擁立されると言うことが明らかになったので、救出するように指示が出されていました。

 ですから、今はあなたの味方です」


「わかった。ここからは俺一人で向かう。もう遠くない。お前らはこいつを頼む。俺は結局名前も知らなかった」


 そう言って話をしていた女性の方を見た。


「……私たちに名前はありません。全ては任務の為の偽名。教えることも出来ません。

 ですが、それで不幸だと思ったことはありません。名前が無くとも、私たちは彼を忘れず英雄として丁重に扱い、そして、未来永劫語り継いでいきます」


 彼女は渡すように腕を差し出してきたので、そこへ亡骸を預けた。戦闘中に亡くなったとは思えないほどに、穏やかな顔をしている。


 受け取った彼女は表情を覗き込むようになると「羨ましいですね」と呟くように言った。

 死に様が穏やかであるのが羨ましいのだろう。

 だが、それは俺に向けた言葉なのかもしれない。俺のおかげで穏やかに息を引き取ることが出来た、だから後悔するなと言う、背中を押してくれるような。


「頼んだぞ」


 女性は「任せてください」と言った。


「これからすることを簡単に伝えておく。

 俺はこれから広場に面したバルコニーへと向かう。そして、アニエスのスピーチが終わる直前を待つ。お前らは俺の後方をここで頼む。

 邪魔するヤツを……ワガママだが殺さずに追い返すか、戦闘不能に追い込んでくれ。

 こっちがうまくいったら逃げてくれ。逃げて、生き延びてくれ。伝える方法はないけど、何とかしてくれ」


「了解です。ですが、時間的にスピーチはもう始まっているはずなのですが、音声が全く聞こえないのです。音声はマルタンならどこにいても聞こえるという手はずでしたが」


「何だって!? 間に合うのか!?」


 そして、俺も内容を聞いて行動を進める予定だった。これでは狙撃のタイミングが計れない。


「もう始まってはいますが、内容はすぐ終わるものではありません。自らの立場を明確に宣言するのはおそらくスピーチの最後でしょう。まだ充分間に合います」


「とにかく急ごう」


 女性と顔を見合わせて同時に頷くと、女性は隊員の方へ振り向いた。


「一名、先ほどの亡命政府軍の軍服を着て、軍に混じりなさい! 皇帝が狙撃されるという噂を流しなさい。

 狙撃を行おうとしている者は先ほど衝突したヴァンダーフェルケグ・オーデンと名乗る者たちの特徴を具体的に伝えなさい!」


 後方にいた男が一人、敬礼するとスッと姿を消した。

 亡命政府軍とヴァンダーフェルケオーデンを衝突させる気だ。どちらもおそらく容赦ない。

 そこで出る犠牲について、俺は考えれば迷いが生まれる。アニエスの救出に支障が出るかもしれない。だが、ここでアニエスを助けなければそこで出る以上の犠牲が出る。

 多い少ないで計りたくはないが、始まってしまった戦いだ。戦争は今も絶えず動いている。

 これからの数をどれだけ減らすか、それだけを考えて動こう。

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