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マルタン芸術広場事件 第三十一話

 敵たちの真ん中を走り抜け、その猛攻を掻い潜り、さらに進み続けると猛攻は収まり、俺たちは一時的に落ち着くことが出来た。


「もう大丈夫だ」と背中に負ぶっていた者に声を掛けた。しかし、返事は無かった。

 首だけを動かして様子を窺うと、腕はぐったりとうなだれ地面に向かって垂れ下がっていた。

 揺するように再び呼びかけたが、まるで砂袋を揺すっているようだった。

 そこへ他の隊員たちが近づき、俺の肩に手を置いた。そして、ゆっくりと首を左右に振った。


 俺はまた救えなかった。それよりも、俺は自らへの怒りで目の前が滲むようだった。下唇をかみ、堪えてもそれは視界を揺らしていった。


「イズミさん、あなたは立派です。あの状況でも諦めずに彼を助けようとする姿勢は賞賛に値します。見捨てられなかったことで安心してしまったのでしょう。残念ですが、もう」


「黙れ」と震えた声で言い返した。

 俺は慰めて貰いたいわけでは無いのだ。むしろ罵倒して欲しいくらいだった。

 野戦病院でいくつもこういう体験は何度もしていた。前線の後方へ向かい、負傷者を運び、治療する。その中でいくつもの死を見てきた。

 だが、繰り返す中でそれに対して何も抱くことが無かった。にもかかわらず、俺はこの隊員一人を救うことが出来ずに後悔に襲われている。

 いっそのこと、この隊員が背中で死んでしまったことも、他の兵士たちの死の瞬間の時のように、ああそうか、仕方ない、で済ませるべきだったのだ。


 あのとき治癒魔法を止めていなければよかったもしれない。同時に唱える力があれば、救えたかもしれない。後悔ばかりが油に浮かぶ泡のように湧き上がってくる。


 だが、今はもう止まってはいられない。弔いなど意味が無いのは知っている。だが、この隊員の為にも歩みを止めてはいけない。

 左腕で目頭を拭った。


「お前ら、進むぞ。こいつはどうする? 共和国の、グラントルアのどこかならポータルをすぐに開ける。最近は何度も行ってたからな」


 強がってみたものの、やはり震えた声は抑えられなかった。


「お前らはマゼルソン法律省長官の部下だろ? こいつが今際の際に渡してきた魔石から乱数放送が聞こえた。俺はよく知っている」


 そこでまたしてもマゼルソン法律省長官を撃ったことが頭の中を過ってしまった。口が歪み、目に涙が溢れそうになったがそれを堪えた。

 俺はマゼルソン法律省長官を撃ったことをこのレヴィアタンの連中に言えるわけが無い。魔石をにぎしりめて、拳を額に当てた。まだ続いている乱数放送がその中から微かに聞こえた。


「ここに置いていく、というのはあなたには出来そうに無いですね。分かりました」


「私たち十一人はマゼルソン法律省長官の特殊部隊です。モンタン……ムーバリはおわかりですね。彼が隊長です」


「そうか。すまないな……」


 それならあいつは今どこで何をしていやがる、と尋ねるよりも先に俺は申し訳なさに押され思わず溢してしまった。だが、レヴィアタンは誰一人反応せず、話を続けた。

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