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マルタン芸術広場事件 第二十九話

 突然のことであり防御に転じることは出来なく、まともに受けてしまった。

 そのときレヴィアタンの一人が俺を庇った。頭や身体を守られ、身体をクッションのようにして俺が壁に衝突するのを防いでくれたのだ。


 はたと顔を上げて、庇った者を見ると背中を強打し足や腕が曲がらない方へと曲がっていたのだ。曲がっていない方の上腿も大きく損傷しどくどくと脈を打つように出血してしまっている。

 このままでは失血死してしまう。


「い、行ってください。自分のことは、いいで、ですから」


 ごほごほと血混じりの咳を吐き、大量に流れ出る血により身体に寒気が訪れているのか、震えるような声でそう言った。


「大丈夫だ。今助ける」


 だが、この損傷度合いでは応急の治癒魔法では追いつかないかもしれない。とにかくは太ももの付け根を思い切り縛った。

 だが、出血は止まる気配は無い。赤い血だまりは容赦なく広がっていく。

 間に合わない。間に合わない。


――“相対的時間減衰(テンポリトログラード)”を使えば、元に戻せるかもしれない。いや、戻る。


 頭の中で一瞬それが過ってしまった。

 だが、俺はもう使わないと決めた。アニエスとの約束もした。

 それ以前に、時間の流れというのは小さな人間には絶対的に平等であるべきで、死という結果さえも覆せてしまうかもしれないそれは本来在ってはならないはずなのだ。


 血の気が引き死の寒さに囚われ始めガタガタという震えが強くなり、血で真っ赤に染まる歯がカチカチと音を立て始めた。

 俺は残酷なことをしているかもしれない。

 死にゆく者に助けると言って安心させることも出来ずに痛みと寒気と死という孤独に追いやろうとしているのかもしれないのだ。


 だが、見捨てたくはない。


「イズミさん、何をしているんですか!? その人はもう!」


「黙れ!」


 俺はその隊員を担ぎ上げた。

 またここで繰り返すのか。目の前で死にゆく者を放って、前に進むのか。

 そんなのはもう耐えられない。救える命は救わなければいけない。


 すると大怪我を負った隊員の男が震える血だらけの手で何かを渡してきた。

 緑色をした小さなそれは魔石だった。

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