マルタン芸術広場事件 第二十六話
「おい、テロリストども」
そう呼びかけると、一人がムッとしたように振り向いた。
その呼び方が気に入らないのは分かってる。自分たちは志があって動いているのだ。テロリストと呼ぶのは、その志が気に入らない者たちだ。
だからあえてそう投げつけるように言った。
「どこへ向かってんだよ? アニエス助けるんだろ?」
「仲間が情報収集中です。この建物内にいるのは分かっています。大人しくついてきて貰いたいです」
「言い方がテロリストのそれだな」
強く言い返すと一人が「イズミさん、協力してください」とやや脅すように低い声になった。
「してやるよ。仲間だとは思ってないけどな。で、アニエスはどこにいるんだよ?」
「それは今仲間が」
俺も苛ついていた。「遅い!」と怒鳴り遮ってしまった。
「お前らずっとマルタンに何ヶ月もいたんだろ? なんでそんなのもわかんねーんだよ!」
腰に収めていたサモセクの柄に左手をかけた。するとレヴィアタンの者たちは一斉に銃口を向けてきた。
「何だよ。撃ってみせろよ。お前らじゃ何もかも手に負えなくなるぞ」
「我々もあなたに乱暴なことはしたくないのです。お願いですから、その武器から手を離していただけますか?」と視線だけをサモセクの方へと向け、銃口を僅かに動かして手を離すように促した。
「これは武器じゃない。これがアニエスまで導いてくれるんだよ。お前らボンクラの捜査能力程度じゃ、見つけるまでにスピーチが終わってアニエスが狙撃される」
「信じられると思いますか?」
「じゃあ信じなくていい。お前ら全員ここで戦闘不能にして、俺一人で助けに行くだけだ。これを使ってな」と言って視線を動かして杖を指した。
「俺は人を殺せないタチだ。よかったな。魔法で気絶するだけで済むんだからな。ここでねんねしてろ。終わったら起こしに来てやるよ」
「それが武器ではないという証明は出来ますか?」
「お前ら、警戒すべきものを間違ってるぞ。俺は魔法が使えるが、刃物なんか包丁しか持ったことがないし料理も下手くそだ。杖のほうに警戒した方が良いぞ」
俺は先ほどから杖を手放していない。右手には常に握られている。
「そういえばお前らは見たとこ戦いのプロだろ。さっき見てたけど、射撃の精度が良すぎる。そんな戦いのプロに聞くけど、万年筆で人を殺せないという証明をしてみせろよ」
しばらくにらみ合いが続いた。話をしていた者が銃を下ろした。
「わかりました。嘘ではないようですね。ですが、怪しい動きを見せたら拘束させていただきます」
「縛り付けるだけで済むのね。とりあえず見てろ」




