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マルタン芸術広場事件 第二十四話

 早く突破しなければいけないという焦りもある。

 おそらく建物内にいる亡命政府軍がこのバカ騒ぎを聞きつけて、(か、もしくは先ほどの真面目クソ君が呼び寄せて)援軍が来てしまうからだ。

 そうなると俺はたちまち挟み撃ちだ。そうなれば厄介でしかない。


 焦りで長くは感じたが、そうこうしているうちに石の壁は崩された。溶けて煙を上げている石の断面から杖を突き出し、強烈な冷気を杖を向けている者たちへと放った。

 すると前三列ほどの隊員たちの杖と腕がみるみると凍り始めた。


 しかし、列には効果的でも行には浅い! どうやら全員で石の壁を撃ってきてたわけでは無いようだ。


 エネルギーの等価還元術は、文字通りに還元術であり、杖を掲げて魔法をバカスカ使ってきたヤツにしか通用しない。

 どうやらビラ・ホラで俺がしたことにはすでに対策がとられていたようだ。俺はここで並んでいる連中がシバサキの部下だからと言って彼らを馬鹿にしていたようだ。


 ならばこちらから打って出るしか無い。出来た隙に部隊との距離を詰め、魔法が放たれそうになると同時に再び石壁を展開した。


 俺はどれほど繰り返したか。実際には三回ほどしか繰り返していない。そのたびに隊列を四列か五列ほど行動不能にしてきた。


 しかし、一向に数が減らないのだ。二回目ともなると既にスタンバイされており、離脱するタイミングも計れ無くされてしまった。


 このままでは間に合わなくなる。だが、援軍を呼ばれるならいっそのこと壁を爆破して突破してやろうか。


 そう思ったときだ。後方から銃の発砲音が聞こえた。ついに亡命政府軍の援軍が来てしまったようだ。

 クソ。前後で囲まれた。

 だが、鼓膜を揺らした発砲音は先ほど市内で聞いた亡命政府軍のものよりも、鼓膜をくすぐるような高音なものに感じた。

 それはずっと前からよく聞いていたようなどこか聞き慣れたものだった。


 残った石の壁に身を隠した。ヴァンダーフェルケの連中からは隠れられているが、まさに向かいからやって来る亡命政府軍の援軍からは丸見えだ。

 足音も大きくなり、姿も見え始めた。およそ十人ほどが向かいからこちらに向かって駆けてきている。

 先頭にいた三人が小銃を構えると撃ってきた。

 俺は咄嗟に頭を低くかがめて弾を避けようとした。運良く弾は全て頭上を通過していった。弾はそのまま杖を構えていたヴァンダーフェルケの魔法使いたちの掌を貫き、杖を弾いて行動不能にした。

 亡命政府軍は素人に近い。狙って撃つことなど不可能だ。今のは運良く当たってくれたのだろう。

 彼らは銃は扱い方を知っていたとしても、慣れて自分の精神が死ぬまでは人に向けて撃つには覚悟がいる、素人は無意識で大体外そうとして銃口を上を向けるとジューリアさんが言っていた。

 再び向かいから何発も撃ってきたが、またしても頭上をかすめるだけだった。


 てんで素人――、そう思って俺からもアクションをしようと杖を握った。


 しかし、様子がおかしいのだ。

 またしても放たれた弾丸は魔法使いたちの掌に当たり、杖を弾き飛ばしていた。

 まるでそれは正確無比に撃ち抜いているかのようだった。

 低い姿勢のまま援軍の方を見ると、汚れた肋骨服を着て仮面を付けた者たちがこちらに向かって走ってきている。


 先頭を走っている者たちは相変わらず小銃を掲げているが、仮面から出ている視線は俺ではなく俺の後方に焦点が合っており、銃口も俺ではなく同様に後ろを向いている。


「……イ……――かないで。――除し……。そのま――……」


 そのうちの一人が何かを言っている。耳を済ませると何を言おうとしているのか、飛び交う銃弾と魔法の音に紛れて聞こえ始めた。


「イズミさん、そのまま姿勢を低く保ちなさい! そいつらを排除します! 撃て(スティーレット)! 撃て(スティーレット)!」


 モスグリーンの肋骨服に仮面を付けた集団。俺は四省長官とルカス大統領の会議のときにきいたことを思いだした。この統一された服装と完全な統率のとれた動きは間違いない。


 こいつらは不顕皇手(レヴィアタン)だ。

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