マルタン芸術広場事件 第二十三話
俺は杖を持ち上げた。そして、今まさに頭の真上に落ちてきそうな木箱に衝撃波をぶつけ、ヴァンダーフェルケの方へと投げ飛ばした。
逃げていった亡命政府軍の兵士三人に追撃をしようと魔法を唱えていた隊員たちをそれで巻き込むことができた。
「クソどもが! 戦う意思が今あるのは俺だけだろうがァ! こっち見ろやァ!」
さらに衝撃波を放ち、周囲に転がっていた木箱やそのクズや板きれの全てを投げつけた。
「貴様、やめろ! おい、やめっ! 貴様、イズミだな!」
団長とおぼしき羽根の付いた帽子を被った男が木くずを手で避けながら尋ねてきた。
だが、無視して木箱やらを投げつけ続けた。
「おい! サー・シバサキから聞いている! お前を生け捕りにして無傷で連れてこいと言われている!
こちらはお前の百倍以上の戦力がある! 諦めッあぁぁ!? あっつ! 熱い! 熱い!
おい、貴様ァ! 何度も何度も! 貴族の魔法使いが戦うときの礼儀を知らんのかァ!」
最終的に飛ばす物が無くなったので、男の帽子めがけて思い切り火の玉をぶつけた。
「ゴチャゴチャうるせぇってんだよ! 人の背中おもっくそ爆破しといて何が礼儀だ、ボケクソがぁ!
喧嘩ふっかけてきたのはお前らで、戦いはもう始まってんだよ!
第一俺は貴族じゃねぇんだよ! 人を作る礼節ごっこに付き合う気はねぇ!」
帽子がちりちりと燃え、炭になり男の頭からはらりと落ちるよりも早く、地面と杖の石打で大きく叩き、今度は氷雪系の魔法を放った。隊列を組んでいる連中の足下を思い切り凍り付かせ自由を奪った。
さらに追い打ちを掛けるように再び木箱を衝撃波で飛ばしてぶつけた。
「庶民なら貴族を敬え、従え、合わせろ! ええい、聞いていないか! 仕方あるまい! 第二部隊、放て!」
咄嗟に地面を持ち上げて石の壁を目の前に展開した。そして、ビラ・ホラでこいつら全員を機能不全に陥らせたあれをやろうと杖先に炎熱系の魔法を集中させた。
これも名前を付けてない。技を発動するときに名乗るのは、ちょっと恥ずかしいのだ。
何ならいっそ、『秘湯混浴刑事江原』とかふざけたものにすれば叫びやすいかもしれない。
ふざけている場合では無い。
強いて言うならエネルギーの等価還元術だ。使った分のエネルギーはどこから来るのか。
炎熱系、氷雪系、雷鳴系、錬金術に治癒魔法、いかなる魔法も起きればエネルギーの勾配は必ず出来る。
その勾配の下を杖先で集めて氷雪系ではない強烈な冷気を放つ魔法だ。
石の壁はあえて魔法を使わせまくる為に頑丈に作った。破壊となると炎熱系を多用するはず。
思った通りに火の玉を連続してぶつけている。その程度では破壊できないと悟ったのか、超高温の魔法をぶつけているようだ。
俺は壁の反対側に背中を当てて次第に大きくなっていく振動を感じつつ、この壁が破壊されると同時に冷気を解き放つ準備をした。




