マルタン芸術広場事件 第二十二話
無防備で魔法による強化の効果も切れつつあった背中にまともに魔法を喰らってしまった。
背中を押されるように真っ正面に吹き飛ばされ、サボっていた三人が腰掛けていた木箱に突っ込んでいった。
衝撃は大きく、ぶつかると同時に木箱は崩れた。さらに背後に積まれていた木箱を巻き込み崩していった。
ついにヴァンダーフェルケ・オーデンが後ろから迫ってきたのだ。
こいつらは容赦が無い。クロエとムーバリが俺を逃がしたのは、俺に賭けたからなのだ。
アニエスを確実に救えるのは俺だけで、俺がいなければ彼女は意味が無いと分かっていたからだ。
そこから考えれば、こいつらクソ騎士団の目的は分かる。アニエスを殺害しようとしている以外に考えられないのだ。
理由は分からない。こいつらの上司はシバサキだ。そこに戦争だの、外交だのというややこしい物があるとは思えない。
ただ何か気に入らないことがあった。それだけだ。それはわからないし、知る必要も無い。
俺がすべきことは一つだ。
しかし、以前ビラ・ホラの手前で対峙したときとは変わったことがある。それはこいつらの連携だ。
以前戦ったこいつらはまとまりのない集団だった。先手を取り名を上げようと杖を掲げて魔法を繰り出し、我先にと突撃してくるだけだった。
魔法の一つ一つは練度が高く、エリートなのであろうというのは分かった。
だが、連携は出来ておらず、ただ乱暴に力を振るうだけの集団――もはや個々の意思のみで動く烏合の衆でしかなく、こちらも闇雲に魔法を放っても個での回避はしても集団での回避は出来ないので充分に効果的だった。
それが今はどうだろう。
見えているヤツらは壁の穴の向こうで整列して、杖を同じ角度に傾けてこちらへ向けている。繰り出された魔方陣も、まるで大きな図書館の棚に綺麗に並べられた背表紙のように整列しているのだ。
まるで誰かがこれまでの戦闘の情報を分析して、的確な指示を出しているようなのだ。
崩れた木箱が頭の上から降ってくる。どうってことはない。
ふと、視界の隅に先ほどのサボり三人組が見えた。一人は気絶しており、もう一人は突然の爆発に腰を抜かして尻餅を突き、足をばたつかせながら後退している。
そして、真面目ぶったヤツは一人しっかりと佇み、俺を哀れむように見つめている。
そう言うヤツは大体何もしない。俺が日本でそうだったから、よく分かる。
こいつは変われるか?
「お前、二人担いで逃げろ」
期待せずに咳き込みながらそう言うと、サボり兵には届いたようだ。俺の言葉に目を丸くした。そして、大きく頷くと、腰を抜かしたもう一人を引っ張り上げ、気絶したもう一人を抱えて走り出した。
できるじゃねぇか。頑張れ。生きろ。
悪いが、ポータルを呑気に開いて送ってる暇は無さそうだ。走れ。




