マルタン芸術広場事件 第二十一話
廊下を真っ直ぐ進むとドアに突き当たった。サモセクはドアをの方を指しているので、ドアを蹴り開けた。
床に敷かれていたカーペットが無くなり石を敷き詰めた床になった。三十センチほどの幅のレールが敷かれている。おそらくカート用のレールだ。使用人の通路なのだろう。
前を見ると誰かがいた。三人の亡命政府軍が木箱の上に座ってだらしなくタバコを吸っていたのだ。彼らは飛び込んできた俺の姿を見ると、首をこちらに向けたまま硬直した。
すぐに事態に気がついたのか、慌てて立ち上がり離れたところに立てかけてあった小銃へ手を伸ばした。
思い切り風を起こして小銃を吹き飛ばすと、戦意を喪失したのか両手を挙げて怯えた顔になってしまった。
俺でも分かる練度の低さだ。バヨネットだの何だと武器は持っているだろうに。
戦意の無い者には攻撃しない。だが、こいつらを使えないだろうか。
「お前ら、この建物は詳しいか?」と尋ねると「すんません。分かりません」と情けない声を返してきた。
市街地を巡回する部隊の者だそうだ。ここで何をしていたんだと尋ねると、外からの出入りも自由で見つからないらしく、サボるには良い場所だそうだ。
クソクロエが! 出入り自由な見つかりにくい入り口があるんじゃないか!
しかし、こいつらァ、市街地で戦ってヤツらにどんなツラして会うつもりだ。杖で頭ぶん殴って気絶ぐらいさせてやろうかとも思ったが、もはや戦意がない。やればただの暴力だ。
「お前ら、戦う気ないならさっさと逃げろ! 連盟政府のヤバいのが来るぞ!」
「連盟政府だって……!?」と一人が突然顔をキリッとさせると「じゃ、ぼ、僕は上官に伝えてきます!」と言ったのだ。
「待て、それは俺も困る。お前らのすることはいらんことしないで黙ってさっさとどっかに逃げるだけだ!」
俺はこいつらの味方ではない。軍をどやどや呼ばれるのは困るのだ。運良く兵士の薄い所に忍び込めたというのにこれ以上騒ぎは起こしたくない。
「じ、じゃ、あなたは何なんですか!? 侵入者じゃないですか!
僕は亡命政府軍ですよ!? 僕は軍人だ! 何か行動をしなければいけない!
でも、僕はもう戦わない! あなたは僕を攻撃できない! 無抵抗な兵士を攻撃するのは悪のすることだ!」
「お前、何だよ! 戦意はないのにそういうことだけはするのかよ!」
「僕は亡命政府軍の兵士だ! 義務を遂行するッ!」
あぁ、もう。いるんだよな、こういうヤツ。どこにでも。めまいを起こしそうだ。
サボり組に混じって一緒になってサボるくせに、何か起きると急に真面目ぶり始めるヤツが。
後々事態が表沙汰になってサボっていることが上官にバレたときに「僕はみんなのサボりを止めようとしていた」とか言い出すんだよ。ホント、セコい奴。
よかったなぁ。俺が「お前を兵士として認めるからここで死ねぃ!」とかなるいきり立つ猛者タイプじゃなくてさ。
このままではぐだぐだとしたやりとりが始まってしまいそうだ。一度サモセクを鞘に収めた。
仕方ない。こいつら全員まとめて、どっか近くの郊外の草原――。
背後に熱を感じると同時に強烈な衝撃を受けた。
凄まじい空気の振動で耳が遠くなり、胸を前に突き出すように押し出されて吹き飛ばされた。




