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マルタンの一番長い日 最終話

「あなた、状況は分かっているの!? 大事なウリヤちゃんの頭が跳ね飛ばされてもいいのですか!?」


 ウリヤちゃんはギヴァルシュ政治顧問の怒鳴り声を聞くと目をつぶり、身体を強ばらせるように肩を縮め歯を食いしばった。

 しかし、ヴァジスラフ氏は脅すように銃を揺らしたり、こめかみに押しつけたりするような仕草は一切見せなかった。


「いいわけないでしょう。ウリヤ執政官にそんなことは絶対にさせない。

 そういえば、フィツェク法律顧問とアブソロン金融顧問は僑エルフでしたね。

 終始影が薄かったですが、連盟政府の側で彼らも私たち同様お飾りだったのですか?

 その前に、この場に姿見えないのは何故ですか? お二人は今、どちらですか?」


「知りませんわ。そういえば先ほど、兵士が銃の調子が悪いと言っていましたわね。ルクヴルール氏が自ら修理したらしいですわ」


 ルクヴルール軍事顧問はうむうむと頷くだけだった。

 今二人がどうなっているか、それはもう関係ないのだ。おそらく二人は、もう、既に。

 責任もその銃の所有者である兵士に押しつけるつもりだろう。

 イズミさん、ごめんなさい。私、止められませんでした。メイドさんたちが杖を返してくれたというのに。ウリヤちゃんにも怖い思いをさせずに済んだはずなのに。

 ですが、今杖を抜くことは出来ないのです。

 動き始めた流れは強く、もう止まることは出来ません。私は進みます。

 悔しさを飲み込み、私は口を開いた。


「いいでしょう。原稿通りにスピーチを行います。ところで、先ほど録音したスピーチの方はどうされるおつもりですか?」


 ギヴァルシュ政治顧問は、ああ、と両目を開くと胸ポケットから魔石を取り出した。そして、人差し指と親指でつまみ上げ、見せつけるようにくるくると手を回した。


「これはお蔵入りですね。もう二度と世間に出ることはありません」


 と言いながら高く掲げて光りにかざした。しかし、私の方を見ると笑顔になり、


「と言いたいところなのですが、どうも私たちの方で手違いがあったそうで、何にも録音されていませんでしたの」


 と指先から落とした。魔石は地面でかちかちと跳ねた。やがて止まったそれをギヴァルシュ政治顧問は思い切り踏み潰し、足首を捻って詰るような仕草を見せつけてきた。


「元々存在しなかった、みたいですわ。残念」


 そして、高笑いを浮かべたのだ。


「ふざけた人ですね! あなたみたいな――」


 顧問団はどうしようもない連中だ。

 罵詈雑言が頭の中を駆け巡り、その全てを暴発させてぶつけてしまおうとした。そのとき、ふとポケットの中の魔石を思い出したのだ。

 今ヴァジスラフが私に押しつけてきたアレはひょっとして――。


「あ、あなたみたいな木っ端役人未満に国を操ることは不可能です!」


 ここで落ち着いてはいけない。何かを悟らせないように言葉を続けた。

 だが、私の中で、確かめてもいないのに、こっそりと渡されたあの魔石が録音したものだという確証がおおきくなってしまい、言い返す言葉に力が込められなかった。


「何とでも仰ってください、アニエス陛下殿」


 もはや勝ち誇ったギヴァルシュには何の言葉も通じないだろう。

 だが、まだ勝利は決まっていない。私にスピーチをする機会を与えてしまったことを覚悟しなさい。

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