マルタンの一番長い日 第八話
「本番ではこちらの用意した原稿を読んでいただきます。あなたの頭の中にある原稿はもう必要ありません。
あなたは皇帝。ですが、ウリヤ執政官と同じでただの張りぼて。新しいルーア王国では政治から何から全て私たちが行います。
あなたは皇帝でいさえすればいいのです」
私とウリヤちゃんを張りぼてだと言い切ったのだ。この雌狐はついに本性を現したようだ。
「あなたが羨ましいですわ。ただ一族と言うだけで皇帝の贅沢な暮らしを死ぬまで送れるなんて、素晴らしいではないですか」
「ギヴァルシュ政治顧問、ついに本性を現したようですね。
あなたは連盟政府からの差し金のはず。するべきことは連盟政府に有利に物事を運び、ルーアなど帝政だろうが王政だろうが消してしまうのが目的のはず。
それなのに、なぜ出来もしない王国で権力を握ろうとするのですか?」
「あら意外。気づいていたのね」とギヴァルシュ政治顧問はわざとらしく驚いたような顔を見せてきた。
「そうよ。私は連盟政府から送られた者。亡命政府を内部から操り、連盟政府の都合の良いように利用する」
と言うと間を開けた。
「――ハズだったの。でも、政治顧問に就いて国を擬似的にでも治めるうちに自分には才能があることに気がついたの。
そこで私は考えたのよ。いっそのこと本当にルーア王国を作り出して、そこで権力を握るって言うのも悪くないと言うことにね」
横にいたルクヴルール軍事顧問も口角を上げてゆっくりと頷いた。
どうやらグルのようだ。当初よりこの二人は顧問団たちの中では連携があった。疑いが確信に変わっただけだ。驚きも無い。
ギヴァルシュ政治顧問はルクヴルール軍事顧問の反応を見ると話を続けた。
「連盟政府では木っ端役人にしかなれず、出世しようにも席は世襲で満席。入るところも無い。そんなところにいつまでいても何の得も無いのよ。
だから、こうして新しくできた国に取り入って偉くなるって言うのは、賢い選択だと思わないかしら」
亡命政府がギリギリの状態で長く膠着状態を維持できていたのはそういうことだったのか。
ポッと出の新造の、しかも亡命政府という不安定な状態でありながら長らえていたのは顧問団たちが連盟政府を牽制していたのだろう。
だからクロエとも母体は同じでも相容れないようで、それでいてつかず離れずだったのはそういうことだったのだろう。そして、クロエを私の手によって追放させたのだ。
だが、クロエはそれにさえも気がついていた。追放さえも連盟政府の軍事的介入を誘発させるための彼女のプランだ。
顧問団たちはやはり、
「考えることが小さいですね。所詮、連盟政府の田舎木っ端役人ですか」
ギヴァルシュ政治顧問は「お黙りなさい!」と顔を震わせて声を荒げた。




