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マルタンの一番長い日 第二話

 政治力は無くとも、私は市民を動かすことが出来た。

 たった一人ではなかったから。

 もし万が一、この政府が存続することになったとしても、私には今後も政治というものには触れられない。


 この亡命政府を作り上げた紅袂の剣(チェルベニメク)騎士団は、帝政思想(ルアニサム)から派生した王政推進派だ。

 彼らは亡命政府が成立したときを境に解散したが、その王政という意思は受け継がれており、皇帝の地位を神格化させて政治から切り離すシステムを作り上げた後に皇帝を即位させ、その後に自らが王として君臨し政治を牛耳る事しか考えていないはず。

 権利の為に私を利用しようと言うだけで、政治の世界に関わらせないようにするはずだ。


 しかし、こうして私が政治家を思わせるような出で立ちをさせられるのは、おそらく責任の回避だろう。

 秘密主義的な宮廷内部を垣間見させることで皇帝も政治に参加していると言うことをアピールし、これまでのマルタンの亡命政府での失策の全てを押しつけようという魂胆が見える。

 失策の結果、政治は王たちが担うことにしたというシナリオを考えているのだろう。


 いいでしょう。構いません。

 私はアニエス・フェルタロス。亡国の皇帝。その全てを背負うもの。

 繰り返すが、これまでも私に政治力はまったく無かった。にもかかわらず、多くの市民を動かすことが出来た。

 今まさに朝霞の静寂に沈んだこの街並みが、その証明と言えよう。


 鏡越しにマフレナ、ネラ、ルツィアを流し目で見つめた。少し睨みつけるようになってしまった。

 三人とも僅かに身体が震えて唾を飲み込んだ。


「ありがとう」


 準備が全て終わり、椅子から立ち上がろうとしたときだ。

 窓ガラスがビリビリと震えた。何事かと思い、窓に近づくと市街地で大きな煙が立ち上っているのが見えた。

 それは大通りを登り、中心部であるこちらへと向かってきていた。

 応戦するかのような連続する発砲音に混じって、魔法を使ったときに出る特有の高音とそのあとに続く爆音が繰り返し聞こえてきたのだ。


 彼が来たのだ。助けに来てくれたのだ。

 しかし、私にはすべきことがある。飛び出して会いに行くなどしてはいけない。

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