マルタン丘陵での戦い 第十六話
何やら彼女らしくない焦った声が聞こえてきたのだ。
石とはつまり、マジックアイテムのことだ。この状況で奪われて困る石など一つしか無い。
――移動魔法のマジックアイテムだ!
ポルッカの焦った声が響くと本陣に緊張が走ったがすかさず次の指示を出すことにした。
「レア! 頼みます!」
想定してはいたが、まさか本当になりふり構わなくなりそこへ手を出してくるとは思っていなかった。レアと共にそのような事態が起きたときの対処法を考えていたのだ。
レアは何も言わずに立ち上がると、すぐさま移動魔法を唱え始めた。
しかし、こちらも対抗して使って攻勢に出るのではない。ある作用を利用するのだ。
それは移動魔法を一定距離以内で発動させたときに起きる混線を利用するものだ。
レアがポータルを開いたと目配せをしてきたのでダムの上空の方へ視線をやると、ポータルがダムの上空真上に開いていた。
同時にユニオン軍を後退させた。
相手が移動魔法を攻撃という形でこちらの戦力排除に使うのではなく、自軍の攻撃に有利するため、この場合はポータルによる増援に使うことを導く為だ。
ハッカペルとユニオン軍を急速に後退させたあとに再びはげた斜面に戻り、護りを固めた。
一部部隊をダムの上に向かせ、そこに開いたポータルに向かって射撃を行うように指示を出した。
開かれたポータルからは次々と連盟政府・商会の連合軍の兵士たちがダムを越えた先の谷底へと落ちていった。
ポルッカは一族を殺された恨みをぶつけるかのように分水嶺の方へと攻撃を始めた。
閃光は絶え間なく分水嶺の上の方の敵部隊を容赦なく襲っている。




